コノ体が腐り堕ちてもも 「サスケ君の様子はどうなの？」 幾分か不機嫌そうに訊いた大蛇丸に、カブトは軽く肩を竦めた。 「熱も下がらないし吐き気も止まらないようです。でもこれ以上、薬を使っては却って毒なので＿＿」 「後遺症が残ったりしないんでしょうね？」 カブトの言葉を遮って、大蛇丸は訊いた。 カブトは軽く眉を顰める。 「僕は止めましたよ。呪印の威力を高める為に薬物を使うのは危険だ…と」 「でもサスケ君は力を求めているのよ。私はサスケ君に力を与え、サスケ君は私に身体を差し出す＿＿そういう契約なのよ」 カブトは溜息を吐いた。 サスケは力を得る為にはどんな手段も厭わず、それは当然、サスケの身体に大きな負担を強いる事になる。 大蛇丸はそれが判っていながらサスケを止めない。 むしろ挑発していると言っても良い。 でありながらサスケの体調が思わしくなくなると、まるでお前の責任だと言わんばかりにカブトを責める。 サスケは無謀で傲慢だし、大蛇丸の要求は身勝手だ。 そしてサスケは自分の言う事になど耳を貸さないし、大蛇丸に逆らう訳にも行かない。 「出来うる限りの手は尽くします。君麻呂の二の舞にはしませんから、ご心配なく」 「頼んだわよ」 内心でもう一度、溜息を吐いてから、カブトは踵を返した。 「……っそう……」 胃の中が空になっても止まない吐き気に、サスケは低く毒づいた。 呪印の威力を高める為の薬物、集中力を長く持続させる為の薬物、瞬発力を増す為の薬物＿＿ そんなモノに頼っていれば身体に負担がかかるのは判っている。 だが短期間で確実に強くなる為には、こうするしか無いのだ。 ベッドの上に力なく横たわり、暗い天井を見上げる。 こうして休んでいる時間も惜しい。 もっともっと修行して、もっともっと強くなりたい。嫌、ならなければならない。 さもなければ、あの男は斃せないのだから。 ------俺を倒したくば、恨め、憎め 何年経っても忘れる事の出来ない言葉が耳の奥で木霊する。 必ずこの手で斃すと誓った。 その為にはどんな手段も厭わない。 仲間の信頼を裏切ったことも、里を棄てた事も後悔はしていない。 薬物に身体を蝕まれようとも構わない。 それであの男を＿＿うちはイタチを斃す事が叶うのなら、何を犠牲にしても良い。 ８年の間、ずっと復讐の為だけに全てを捧げてきたのだ。 この身体も、生命も、想いも、全てを。 「入るよ」 ノックの音に続いてカブトの声がし、ドアが重い音を立てて開いた。 サスケはベッドに横たわったまま、不機嫌そうにカブトを見上げる。 「気分はどうだい？」 「…早くオレが動けるようにしろ」 「判っているよ」 軽く肩を竦めてから、カブトはサスケの上に手をかざした。 「薬を使うと却って逆効果だからね。チャクラを流し込んで君のチャクラを整える。薬の副作用がそれで消える訳じゃないけど、大分楽になる筈だ」 サスケは口を噤み、ゆっくりと瞼を閉じた。 そのサスケを、カブトは傍らで見下ろす。 こうして無防備に横たわる姿はただの子供のように見えるのに、自分の身体を極限まで酷使してでも強くなろうとするその意志の強さはどこから来るのだと、疑問に思う。 どうして、そうまでして復讐に拘るのか。 「…僕には理由が判らないんだけどね」 チャクラを流し込みながら、カブトは言った。 「何故君は、こうまでして実の兄に復讐しようとするんだい？」 「余計な事は訊くな。あんたの役目はオレの身体を治す事だけだ」 眼を閉じたまま、低くサスケは言った。 はなから返事など期待していなかったカブトは、構わずに言葉を繋ぐ。 「復讐したからって死んだ者が蘇る訳でなし、君自身も危険に晒されるんだ」 何より、と、カブトは続けた。 「君とイタチ君が共倒れになったら、うちは一族は本当に滅んでしまうのに」 不意に襟首を掴まれ、カブトは思わず息を呑んだ。 横たわったままこちらを見上げるサスケの殺気の篭もった眼差しに、背筋が寒くなる。 「滅ぼさせたりはしない。それはあの男がやろうとした事だ。オレは、絶対にそれを止めてみせる」 「…だけどイタチ君は君を殺さなかった。もしかしたら＿＿」 「オレを殺さなかった事を、必ずあいつに後悔させてやる」 言い放って、サスケはカブトを突き放した。 ベッドから降り、刀を身につける。 「…まだ休んでいなければ＿＿」 「いつまでも時間を無駄にしていられない。修行をするから付き合えと、大蛇丸にそう伝えろ」 カブトは口を開いたが、何も言わずにただ溜息を吐いた。 サスケは自分の言葉になど耳を貸さない。 何を言っても無駄だ。 理由など、考える必要はないのだ＿＿ 部屋を出てゆくカブトの後姿を見送りながら、サスケは思った。 何の為に復讐するのかなどと、考えれば決意が揺らぐだけ。 里を抜けたのも、あのまま木の葉に留まっていれば復讐への渇望が薄れてしまうからだ。 「オレは……復讐者だ」 それ以外の何者でも無い。 この８年間、その為だけに生きて来た。 それが全てであって、理由など必要ない。 だがそれでも、きっと問わずにはいられないだろうと思うと心が乱れる。 心の乱れは隙を生み、弱さに繋がる。 だから問う事など赦されないのだ＿＿何故、あの時、自分を殺さなかったのか…などと。 「オレは、復讐者だ」 もう一度、自らに言い聞かせるようにサスケは呟いた。 back