虫唾がはしる
「__くしょう……」
目覚めた時、サスケは低く毒づいた。
悪い夢を見た後の、それは習慣のようになっている。
一族殲滅事件の起きた後、悪夢を見ずに眠る事は出来なかった。
その事を医療忍に決して話そうとしなかったせいで、睡眠薬を処方されるようになったのは何度も手首を切った後だ。
悪夢を見る事を望んでいた訳では決して無い。
だが睡眠薬のせいで夢も見ずに眠ることには、何故か抵抗を感じた。
その理由は判らないが、里を抜けて大蛇丸の許に寄宿する今となっても変わらず木の葉の夢を見るのは癪に障る。
全てを断ち切って里を抜けた筈だったのに、自分自身の未練に裏切られた気分だ。
未練?何に対する?
乱暴に布団をはぎ、ベッドから降りる。
衣服を脱ぎ捨ててバスルームに入り、冷たいシャワーを頭から浴びた。
------好き……だよ、兄さん
------愛している?
------愛してる……
他の悪夢(ゆめ)も何度も見る。
だが一番、見る頻度が高いのは、そして最も感情を掻き乱されるのは、十年前の、あの夜の夢だ。
言葉巧みにイタチに誘われ、陵辱された。
あの時__そしてその後の幾度もの逢瀬の時も__イタチの瞳が赤かったのを覚えている。
つまりあの時、イタチは術を発動していて、自分はその幻術に捕らわれただけなのだ。
そう、思っても、罪悪感は消えない。
例えそれが幻術であろうが何であろうが、自分は兄の誘いを受け入れ、共に罪を犯した。
「畜生……!」
ダン、と思い切り壁を叩き、呪いの言葉が反響するのを聞く。
無残に殺された一族の恨みは、決して忘れられない。
何があろうと赦す事の出来ない、不倶戴天の敵。
それなのに夢に見るのは、幸せだった頃の思い出ばかりだ。
嫉妬し、妬み、疎ましく思っていた。
だがそれ以上に憧れ、誇りに思い、少しでも近づきたいと願っていた。
あの夜も痛みと恐怖で泣き喚いていた筈だったのに、思い出すのは何故か、抱きしめる腕の温もりと、甘やかな快楽だけ。
だがそれも全てはイタチの幻術だったのだろう。
わずか5歳の子供の心を操るなど、当時既に中忍だったイタチには造作も無い事だった筈。
だが、何故?
何故、あんな事をした?
イタチもまだ10歳だったのだから、単なる性欲処理とは考え難い。
兄の後ばかり追っている愚かな弟を、意のままに操りたかったから?
そうだとしても、その目的は何だ?
幾ら考えても、答えは出ない。
イタチが何故、あんな事をしたのか、そして一族殲滅の日、どうして自分だけ殺さなかったのか__
8年の間、ずっと問い続けてきた。
まやかしでしかない甘い記憶に、そしてそれを断ち切れずにいる自分自身に、虫唾の走る想いを持て余しながら。
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