「今日もアナタの愛しい恋人が迎えに来たって、ちゃんと手帳にメモして下さいね」
「カカシさん…こんな人目のあるところで、そんな大きな声で言わないで下さい」
恥ずかしそうに頬を赤らめたイルカの腰に、カカシは腕を回した。
「良いじゃないですか。俺たちの仲は里中の公認なんですから」
「公認って言うより、あなたが触れ回ったって聞きましたけど?ってか、どこ触ってるんですか…!」
「イルカ先生、つれないー。俺たち、恋人同士でショ?」
アカデミー正門近くでじゃれあう男二人の図に、通りがかったアスマは溜息を吐いた。
「良い歳した野郎二人が何やってやがるんだか」
「あら。仲が良いのはいいことじゃない。丸く収まったみたいで良かったわ」
連れ立って歩いている紅の言葉に、アスマは不機嫌そうに煙を吐いた。
「俺は奴がイルカに付き纏うのを止めさせるつもりだったのに、裏目に出やがった。望みがないと判れば諦めると思ったのにな…」
「妬いてるの?」
言って、紅はくすりと笑った。
「おや、お二人さん。仲の宜しいことで」
アスマと紅の姿を認めたカカシが、ふざけた口調で二人に言った。
「ま、でも、俺たちほどラブラブじゃないケドね」
「…カカシさん、子供のいるところでは止めてくださいっていつも言ってるでしょう?」
その日はまだ時間が早かったので、アカデミーの近くには生徒たちの姿も見られた。
が、毎日イルカを迎えに来てじゃれつくカカシの姿は既に見慣れているので、誰も関心は示さない。
カカシは今ではイルカのアパートでイルカと一緒に暮らしていて、任務で里を空ける時には忍犬にイルカを迎えに行かせている。
「大丈夫、生徒にも公認です。メモにもそう書いてくださいね?」
「全く、あなたって人は……」
文句を言いながらも、イルカは手帳を広げていた。流石に生徒公認とは書かなかったが、カカシが迎えに来た事は書きとめている。
カカシは手帳を覗き込み、自分の名の前に「恋人の」という文字があるのを嬉しそうに確認した。

「良かったわね…イルカ先生の怪我のせいで一時はどうなる事かと思ったけど、前よりずっと仲がいいみたいじゃない?」
カカシとイルカの二人が歩み去るのを見送りながら、紅は言った。
アスマが答えないので、紅は傍らを見上げた。
「どうしたの?難しい顔しちゃって」
「…写輪眼ってやつは、筆跡のコピーも出来るんだよな」
「アスマ…」
アスマの呟きはイルカの耳には入らなかった。
が、カカシはそれを聞き逃さなかった。
ちょっと待っていてくださいとイルカに言って、カカシはアスマの元に戻った。
「俺は橋が壊されたら架けなおす。何度でも、何十回でも」
「…てめぇ、やっぱり__」
「イルカ先生に余計な事を言っても無駄だよ。それに、あの人が幸せなのは見て判るでショ?」
アスマは、奥歯を噛み締めた。
カカシの言葉に、反論は出来なかった。

「あの野郎、何て事を……」
カカシとイルカの二人が手を繋ぎ、歩み去るのを見送りながら、低く、アスマは言った。
「…あなたが思っているようなことが本当だとしても、紙に書かれた『記憶』だけで感情を操ったりは出来ないわ。少なくともイルカ先生がカカシに好意を抱いているのでなければ、あんな風に笑えない」
「だがあれじゃ、幻術で操っているようなもんだ」
「恋の駆け引きなんて、多かれ少なかれみんな似たようなものでしょう?」
アスマは半ば唖然とした表情で、紅を見た。
「……怖い女だな、お前は」
「くの一を馬鹿にしないでよ」
言って、紅は嫣然と微笑んだ。

「今日の晩御飯、何にしましょうか」
「そうですね…」
カカシの言葉に、イルカは手帳のページをめくった。
「昨日、焼き魚だったから、今日は煮魚か水炊きにでもしますか。昨日、買った茄子がまだ残ってるから、味噌汁はそれにしましょう」
言ってから、イルカは怪訝そうな表情でカカシを見た。
「え…とあの、俺今日、カカシさんと晩飯を一緒に喰う約束をしてたんでしたっけ?」
「手帳の最後のページを見てください。アナタと俺は恋人同士で、一緒に暮らしているんです」
カカシの言葉に、イルカは幾分か慌てて手帳の最後のページを確認した。
そして、申し訳なさそうにカカシに向き直った。
「済みません。こんな大切なことを忘れてしまうなんて……」
「気にしなくて良いんですよ?アナタが忘れたら、俺が思い出させて上げますから。何度でも、何十回でも」
傷ついた様子も無く、むしろ嬉しそうに微笑んでいるカカシの姿に安堵したのか、イルカも笑顔を見せた。
「そうしたらアナタは、また俺と恋に落ちて下さいね?」
「はい。何度でも、何十回でも」
照れくさそうに言ったイルカの言葉に、カカシは幸せそうに笑った。









あとがき
ある事件をきっかけに前向性健忘症になってしまった男の復讐を描くサスペンス映画を見まして、それをイルカカ(カカイル)で書いてみようと思うのがオタのサガ。
サスペンスでは無いですけどね。
うちのカカシは壊れ系なので、今回は落ち着いた大人の男路線で行こうかな…と思ってた筈なのに、やっぱり壊れ系でオチてしまいました;
橋が壊されてた云々は深草の少将じゃなくて他の人のエピソードかも知れませんが、その辺はスルーしてやって下さい。
今回はうちのサイトには珍しくハッピーエンドな気がするんですが……ハッピーエンドかなあ……。
まあ、但し書きつきのってコトで。

BISMARC



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