待ち人の気配に、カカシは手にしているイチャパラから目を上げた。
今日は残業でもしていたのか、いつもより時間が遅い。
「イルカ先生。今、お帰りですか?」
まるで偶然、居合わせたような口調で問う。
「カカシ先生。どうされたんですか?こんな時間に、こんな所で」
「ちょっと調べ物があって、今まで資料室にいたんです。帰ろうとしていたら、アナタの姿が見えたので」
イルカの問いに、カカシは答えた。
「こんな時間まで、お疲れ様です」
「ところで、食事は済まされましたか?」
「ええ。遅くなりそうだったので出前を取りました。カカシ先生は?」
イルカの問いに、似たようなものですと、カカシは答えた__本当は、何も口にせずにイルカを待っていたのだが。
「途中までご一緒しても良いですか?」
「カカシ先生のお宅もこっち方面なんですか?」
「ええ」
躊躇いも無く、カカシは嘘を答えた。

「じゃあナルトは、仲間とうまくやれてるんですね」
言って、イルカは嬉しそうに笑った。
アカデミーからイルカの住むアパートへと続く道を、二人は肩を並べて歩いた。
「ナルトの事が、心配なんですか?」
「心配と言うか__あの…俺、前にもナルトの事、カカシ先生に訊きましたっけ?」
カカシは肯定も否定もせず、ただ微笑した。
「もし、何度もナルトの事ばかり訊いていたら済みません。あいつはもう、立派な下忍だって判ってはいるんですけど、つい…」
「謝ることなんてありませんよ。アナタが気に掛けていると知れば、ナルトも喜ぶでしょう」
でも、とカカシは続けた。
「今日は、他の話をしませんか?」
「判りました。え…と、サスケの奴、相変わらず復讐とか言ってるんでしょうか?」
「7班の話でも無くて」
カカシの言葉に、イルカは困惑したように眉を曇らせた。
「済みません、俺…さっきから勝手な質問ばかりして。でも、他に何の話をしたら良いか判らなくて」
「俺たちの接点は、7班の子供たちだけ」
「カカシ先生……?」
「それじゃ、寂しいでショ?」
同意を求めるように言って、カカシは微笑った。
「確かにアナタと俺の接点は多くないかも知れません。でも、折角こうして知り合えたのだから、もっとアナタと親しくなりたいと、俺は願っているんです」
カカシの言葉に、イルカは意外そうな表情を見せた。
が、すぐにそれは嬉しそうな笑顔へと変わった。
「そんな風におっしゃって頂けて、何だか光栄です」
「光栄だなんて大げさですね。俺はただ、アナタとこうして一緒にいられるのが楽しいだけです」
「俺もです。カカシ先生と話してると、何だか楽しいです」

「俺の家、此処ですので」
やがて自宅アパートの前まで来ると、イルカは立ち止まってカカシに言った。
「機会が会ったら、飯でもご一緒させてください」
「楽しみにしていますよ」
「じゃあ、えっと……今、約束してしまったほうが良いですよね?」
イルカの言葉に、カカシは首を横に振った。
「俺は急な任務が入ることもあるので、約束はしないほうが良いでしょう」
「そうですか…。では、今日は色々とお話を聞かせてくださって、有難うございました」
「イルカ先生」
踵を返そうとしたイルカを、カカシは呼び止めた。
「アナタに聞いてほしい事があります」
「はい。何でしょう?」
カカシは息を吸い、吐いた。
それから、再び口を開いた。
「アナタが、好きです。恋愛の対象として、愛しています」
「……申し訳ありませんが」
イルカは暫く躊躇い、それから困惑気な微笑を浮かべて言った。
「あなたのお気持ちには応えられません」
「…何故?」
「俺にはもう、大切な人がいますから」





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