「申し訳ありませんが」
カカシの「好きです。付き合って下さい」という子供っぽいとも取れる言葉に、イルカは困惑げな微笑を浮かべて言った。
「あなたのお気持ちには応えられません」
「…何故?」
「俺にはもう、大切な人がいますから」
待ち人の気配に、カカシは手にしているイチャパラから目を上げた。
「イルカ先生。今、お帰りですか?」
まるで偶然、居合わせたような口調で問う。
「カカシ先生。どうされたんですか?こんな時間に、こんな所で」
「ちょっと調べ物があって、今まで資料室にいたんです。帰ろうとしていたら、アナタの姿が見えたので」
イルカの問いに、カカシは答えた。
「アカデミーの資料室ですか?でも、あなた程の忍ならば……」
言いかけて、イルカは口篭もった。
元暗部のカカシならば、アカデミーの資料室などを使わなくとも、情報を得る手段は幾らでもある筈だ。
「ところで、食事は済まされましたか?」
「あ…いえ…」
「でしたら、ご一緒にいかがですか?」
顔の露出した唯一の部分である右目に人懐こそうな笑みを浮かべ、カカシは言った。
断る理由も無く、イルカは頷いた。
「じゃあナルトは、仲間とうまくやれてるんですね」
言って、イルカは嬉しそうに笑った。
アカデミーからそう遠くない小料理屋で、二人はカウンターに並んで座っていた。
「ナルトの事は、心配しなくても大丈夫ですよ」
「心配と言うか__あの…俺、前にもナルトの事、カカシ先生に訊きましたっけ?」
カカシは肯定も否定もせず、ただ微笑した。
「もし、何度もナルトの事ばかり訊いていたら済みません。あいつはもう、立派な下忍だって判ってはいるんですけど、つい…」
「謝ることなんてありませんよ。アナタが気に掛けてくれていれば、ナルトも喜ぶでしょう」
でも、とカカシは続けた。
「今日は、他の話をしませんか?」
「判りました。え…と、サスケの奴、相変わらず復讐とか言ってるんでしょうか?」
「7班の話でも無くて」
カカシの言葉に、イルカは困惑したように眉を曇らせた。
「済みません、俺…さっきから勝手な質問ばかりして。でも、他に何の話をしたら良いか判らなくて」
「俺は元暗部の上忍で、アナタはアカデミー教師の中忍。子供たちの他に、接点は無い」
「カカシ先生……?」
「それじゃ、寂しいでショ?」
同意を求めるように言って、カカシは微笑った。
「確かに今まで同じ任務に就いた事はないし、これからもそんな機会は無いかも知れません。でも、折角こうして知り合えたのだから、もっとアナタと親しくなりたいと、俺は願っているんです」
カカシの言葉に、イルカは意外そうな表情を見せた。
が、すぐにそれは嬉しそうな笑顔へと変わった。
「そんな風におっしゃって頂けて、何だか光栄です」
「光栄だなんて仰々しいですね。俺はただ、アナタとこうして一緒にいられるのが楽しいだけです」
「俺もです。カカシ先生と話してると、何だか楽しいです」
そういえばもう、こんな時間だと、店の時計を見上げてイルカは言った。
食事はとっくに済んでいたのだが、店が余り混んでいない事もあって長居したのだ。
「そろそろ出ますか」
今日は俺に奢らせて下さいと言って、カカシは勘定書きを手に席を立った。
カカシとイルカは並んで夜道を歩いた。
繁華街を抜けると、急に人通りが少なくなる。
「カカシ先生のお宅もこっち方面なんですか?」
「ええ」
躊躇いも無く、カカシは嘘を答えた。
イルカはカカシの言葉を疑う事も無く、二人はそのまま他愛の無い会話を続けた。
「今日はどうも有難うございました。ご馳走にまでなってしまって」
やがて自宅アパートの前まで来ると、イルカは言ってカカシに頭を下げた。
「次は俺に奢らせてください」
「楽しみにしていますよ」
「じゃあ、えっと……今、約束してしまったほうが良いですよね?」
イルカの言葉に、カカシは首を横に振った。
「俺は急な任務が入ることもあるので、約束はしないほうが良いでしょう」
「そうですか…。では、今日は有難うございました」
「イルカ先生」
踵を返そうとしたイルカを、カカシは呼び止めた。
「アナタに聞いてほしい事があります」
「はい。何でしょう?」
「アナタが、好きです」
カカシの言葉に、イルカはすぐには答えなかった。
躊躇い、それから笑顔を見せた。
「有難うございます。俺も、カカシ先生のこと、好きです」
「そういう意味じゃなくて」
静かに、カカシは続けた。
「アナタの事を、恋愛の対象として好きなんです。俺と、付き合ってください」
「……申し訳ありませんが」
イルカは好きだと言われた時よりも長く躊躇い、それから困惑気な微笑を浮かべて言った。
「あなたのお気持ちには応えられません」
「…何故?」
「俺にはもう、大切な人がいますから」
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Wall Paper by 月楼迷宮
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