「…イルカ先生、どうかしたんですか?」
いつもとは少し様子の違うあの人に、俺は訊いた。
疲れているんだろうか?
それとも、何か気にかかる事でも?

「ね、どうしたの?疲れてるんですか?」

あの人が答えてくれないので、俺はもう一度、訊いた。
軽く笑って何でもないですと言ってくれるのを期待していたのに、答えは無くて。
俺は少し、不安になった。
「……せんせ?」
「__済みません…」

謝ることなんて無いのに。
俺はただ、アナタの笑顔が見たいだけ。

「アカデミーで、ちょっと……」
「嫌な事でもあったんですか?」
俺はあの人の腕をすり抜けて、あの人を抱きしめた。
あの人の腕は温かくて、抱きしめられていると子供に還ったみたいな気持ちになれる。
あの人にもそんな気持ちをあげたくて、俺はあの人を抱きしめる。

「嫌なことなんか、忘れさせてあげますよ?」

精一杯の笑顔を見せて、俺は言った。
でもまだあの人は笑ってくれない。

ねえ、何がアナタをそんなに悩ませているんですか?
誰かに嫌な事を言われたか、酷い事をされたの?
だったらそいつの名を教えて。俺が敵を取るから。
アナタを傷つけたこと、死ぬほど後悔させてやる。
あっさり殺してなんかやらない。
暗部には長くいたから、拷問術なら沢山、知ってる。
イビキにだって負けないくらい。

「今日は俺に任せて」

でもそんな事をしたら優しいあの人は困ったような顔をして『止めて下さい』と言うだろうから、俺は敵討ちの代わりにあの人の身体を慰めることにした。
俺に出来るのは、こんな事しか無いから。
こんな事しか出来ない自分が、歯痒い。

ねえ、言ってよ。
アナタの為なら、俺は何でもするから。
アナタが望むなら、何人だって殺すから。
アナタがそうしろって言うなら、里を滅ぼしたって構わない__愛妾の笑顔を見たいが為に、国を滅ぼした王のように。

そうしたらあの人は、喜んでくれるだろうか?
言葉に言い尽くせない俺の気持ちを、判ってくれるだろうか?

アナタが、好き。
アナタが、好き。

何度、繰り返してもこの想いは言い尽くせない。
幾夜を共に過ごしても、この熱は冷めない。

アナタが、好き。
アナタが、好き。

アナタが、好き。




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