「何だ、てめぇ、怪我してるじゃねえか」
「余計なコト、言ってないでとっととヤれよ」
俺はアスマの無神経な言葉に苛立ちながら言い返した。
「一体、イルカと__」
「黙れ。俺は今、何も考えたくない。ただ眠りたい。それだけだ」
アスマが動かないので、俺の苛立ちは募る。
いつもは俺の同意もなく勝手にヤる癖に、こんな時にはてんで役に立たない。
やっぱり、この熊、殺そう。
「ヤらないんだったら__」
不意に、髭面に口を塞がれた。
止めろ。
恋人でもない男とキスするなんて気色悪い。
オマエはただ突っ込んで揺さぶって、脳みそが溶けてぐちゃぐちゃになるくらいに俺の身体を熱くすればそれだけで良い。
俺は抵抗しようとした。
が、そのまま組み敷かれて突っ込まれた。
「くっ……!」
激痛に、脳髄まで焼けるようだ。
滅茶苦茶に突き上げられかき回され揺さぶられ、その内俺は、意識を失った。



眼が覚めた時、まだ朝にはなっていなかった。
身体はボロ布のようで精もチャクラも尽きているのに、深く眠ることも出来なかったらしい。
俺は隣に横たわっているアスマを見て、思わず眉を顰めた。
俺の眠りの浅い原因はこいつだ。
隣にいるのがあの人でなければ、俺はぐっすり眠ることも出来ない。
かろうじて身体が動かせるのを確認し、俺はのろのろと衣服を身につけた。

あの人を貶めるのだけは赦せません

イルカ先生の言葉が脳裏に蘇る。
本気で怒らせてしまった。
もう、終わりだ。
そう思ったら、吐き気がした。
まだ戦場に慣れていなかったガキの頃、不安と緊張と恐怖で吐き気がした、あの時と同じだ。
何でイルカ先生に、あんな事を言ってしまったんだろう?
先生の事だって、酷い事を言ってしまった。
二人とも俺の大切な人なのに。

やっぱり、俺はクズだ。

イルカ先生に出会えて、まともな人間に戻れた気になってたけど、甘かった。
毎朝、何時間もかけて自分が見殺しにした仲間たちに詫びているけど、それでも足りない。
オビトの事だって、イルカ先生に言われたとおりだ。
その気になれば助けられた。ただ自分が死ぬのが厭だったから、見殺しにした。
そうやって死んだ仲間たちに詫びながら、任務だったのだから仕方ないと自分に言い訳している。
俺は、クズだから。
暗部の任務では一般人も数え切れないくらい、殺した。
暗殺のターゲットだった時もあれば、巻き添えで何の関係も無い者たちの生命を奪った事もあった。
そんな任務に耐えられなくなって暗部を辞めた仲間たちを、俺は内心、「惰弱」と蔑んでいた。
俺は、本当に人でなしだ。
俺みたいな人間に、誰かを好きになる資格なんか無い。
誰かに愛されたいだなんて、考えるだけおこがましい。

そう思ったら、吐き気がした。

「…帰るのか?」
のろのろとドアの方に足を引き摺っていた俺に、背後からアスマが訊いた。
帰る?どこに?
イルカ先生の元へは帰れない。あの人は、もう俺を赦してはくれないだろう。
あの人に気に入られたくて一生懸命まともな人間のフリをしていたけど、化けの皮が剥がれてしまった。
きっともう、あの人は俺を赦してはくれない。
もう二度と、俺に笑いかけてもくれない。
「カカシ…!?」
俺は駆け寄って窓を開けると、吐いた。
昨夜は何も食べていないから吐くものなど何もなかったけれど、それでも吐いた。
もう、あの人の笑顔が見られないのかと思うと、凄まじい不安が俺を押し潰した。
哀しいとか辛いとか、そんなナマヤサシイ感情じゃない。
脚がガタガタ震えて背筋を冷や汗が伝って、立っているのがやっとだ。

あの人と別れるなんて、考えられない。
あの人を諦めるなんて、出来ない。
あの人を失うくらいなら、一緒に死んだほうがマシだ。

あの人は、俺と一緒に死んでくれるだろうか……?

「…カカシ」
アスマは俺の背後に歩み寄ると、柄にも無くそっと、俺を抱きしめた。
「……止めろ。気色悪い」
「馬鹿野朗…」
俺は数時間前までイルカ先生と一緒に見上げていた月を眺めた。
そして、あの人と一緒に死ぬ方法を、幾通りも考えた。





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