俺は俺の上に馬乗りになって狂ったように腰を振っている男を冷ややかに見つめた。
あの男はいきなり俺を押し倒し、俺を口に含み、それから俺を強引に自分の中に咥え込んだのだ。
まったく慣らしていないせいで酷くキツイ。
俺がこれだけきつい思いをしているのだから、あの男は相当な痛みを感じている筈だ。
苦痛に低く呻きながらも動くのを止めようとしない相手を見ながら、これが逆の立場だったらとんでもない事になっていただろうと、俺は思った。

今まであの男は俺に感情を晒した事が無かった。
俺はあの男に心を開いて欲しくて精一杯の努力をしたのに、あの男は俺に心の内を見せたことが無い。
それが今、あの男は剥きだしの嫉妬を晒している。
狂気に似た嫉妬を示すことは今までにもあった。が、こんな風に自分を失うのは、そしてそれを俺に見せるのは初めてだ。
どこまであの男が本心を晒すのか、俺はどこか嗜虐的な興味を覚えた。

「……カカシさん…」
漸く俺が吐精すると、あの男は動くのを止めた。
あの男自身は達してもいなければ、勃ってもいない。
いくら男を受け入れ慣れた身体でも、こんな無茶をしては苦痛しか感じられなかっただろう。
血の匂いが、鼻腔を掠めた。
「大丈夫ですか?もしかして傷が__」
「アンタ、俺の恋人でショ?」
獰猛な目つきで間近に俺を見、譴責するような口調であの男は言った。
「何で今頃になって昔の男の話なんかすんの?それも俺の眼の前で。そんなにあの人が忘れられない?」
「……忘れるなんて、出来ません。きっと、一生」

俺は僅かに躊躇ってから、言った。
あの男を追い込むのが危険なのは判っている。これ以上、あの男の嫉妬を煽れば、俺に愛想を尽かして離れていくどころか、この場で殺されかねない。
それでも、俺はもっとあの男を揺さぶってみたくなった。

「…よくも抜け抜けとそんな__」
「あんたが訊くから、正直に答えただけです。一緒にいられたのは短い時間でしかなかったけれど、あの人の言葉の全ては今でも覚えています」

里の人たちは皆、大切だよ
でも、イルカは特別だ

九尾事件で俺は、愛する人の全てを同時に喪った。
それでも何とか生きて来れたのは、四代目の遺してくれた優しい言葉と、輝くような日々の思い出があったから。

「……アバズレ」
低く、呪うように言うと、あの男は俺から離れた。
俺の精液とあの男の血の混ざった液体が、畳を汚す。
「一体、どうやって先生に取り入ったのさ?先生と寝たがる女は吐いて棄てるほどいて、先生はそんな女どもには眼もくれなかったのに」
「そういう関係では無かったと、何度も言ってるでしょう?」
「アンタと先生の関係を知った時、かなりショックだったよ。聖人君子だと思ってた先生が、実は年端もいかない子供に手を出してただなんて」
あの男は下半身を晒したままの姿で、俺を冷たく見据えた。
「どうやって先生を誑し込んだ?それにしても、あの先生が幼児趣味だったなんて__」
「違います…!」

俺は、激しい憤りを感じた。
あの人との美しい思い出を、こんな気狂いに穢されたくない。

「俺の事を何と誤解されようと構わない。でも、あの人を貶めるのだけは赦せません」
「赦せない?だったら、俺を黙らせて見ろよ、中忍」

パン…と、乾いた音が響いた。

俺は半ば呆然として、あの男の左頬の赤みを見つめた。
自分があの男を平手打ちにしたこと、あの男がそれを避けなかった事。
どちらも、俺には意外だった。
「…っ……」
身の竦むような殺気に、俺は思わず目を閉じた。
このままでは殺られる。
そう思っても、物凄い殺気に押し潰されるようで、身体が動かない。
俺は四代目を想い、両親を想い、もう一度、四代目を想った。
こんな所でこんな理由でこんな相手に殺されるなど不本意だ。
俺は何とか目を開け、相手を睨み返した。
威圧的なチャクラに抗って腰を浮かし、武器に手を伸ばす。

その俺を、あの男は冷たい眼で見ていた。
感情の篭もらない、人形のような眼だ。

あの男は服を身につけると、そのまま姿を消した。




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