「…イルカ先生、どうかしたんですか?」
その問いに、俺は心中で舌打ちした。
いつものように会って、
いつものように誘われて、
いつものように俺の部屋のベッドで。

…なんてかったるい。

「ね、どうしたの?疲れてるんですか?」
済みませんこのところ残業が続いていてとでも言えばこの男は満足するのだろうか?
丁寧に愛撫して前戯に時間を掛けるだなんてうざったくて仕方がない。
あんたも男なんだから判るだろ?
それとも男に抱かれるのに慣れすぎてて判らないのか?

「……せんせ?」
「__済みません…」

俺は相手を黙らせるために、仕方なく言葉を吐いた。

「アカデミーで、ちょっと……」
「嫌な事でもあったんですか?」

俺の目下の恋人という事になっているその男は、易々と体勢を入れ替えて俺の上に乗った。
見た目は華奢と言っても良いくらいの細身だが、流石は上忍様だ。俺より腕力も強いだろうし、力の使い方も心得ている。
だから俺の事なんていつでも好きに出来るくせに、そうしない。
俺に甘えるフリをして、俺を求める。
俺の唇を、
俺の舌を、
俺の指を。
欲しいのはどうせ俺の一部なんだ。
いっそ切り取ってくれてやろうか?

「嫌なことなんか、忘れさせてあげますよ?」

タチの悪いことに、この『恋人』は貪欲だ。
俺の『優しい言葉』だとか、『屈託のない笑顔』だとか、そんなモノまで欲しがる。
俺がそれを与えてやらなければ、綺麗な顔を哀しそうに歪めて被害者面する。
ああそうだとも。悪いのはいつだって俺だ。
この苛立ちも嫉妬も劣等感も、全て俺のせい。

「今日は俺に任せて」

遊女のように妖艶な笑みを浮かべると、俺の『恋人』は俺を口に含んだ。
それは俺の一部のくせに、俺の感情を簡単に裏切って反応を示しだす。
多分もう、俺の身体は俺のモノでは無くなっているんだろう。
きっとうもう、俺の身体は髪の毛の一筋に至るまで全て、この身勝手で貪欲な『恋人』のモノなんだろう。
抗っても無駄なのは判っている。
俺に、選択の余地など無い。

でも、心はくれてやらない。
絶対に。



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