「可愛いでしょ、この子♪」 そう言って、四代目火影に就任の内定している上忍師は、満面の笑顔を見せた。 腕に抱かれているのは3歳くらいの子供だ。 後ろでひとつにちょこんと括った長めの黒髪に、長い睫にふちどられた大きな黒い瞳。 幼子に特徴的な滑らかな肌にふっくらした頬。 確かにどれを取っても愛らしい。 「今日の任務はこの子のお守りだよ」 「可愛い〜v」 「子守……?」 「……イタチ……」 四代目の言葉に、リンは喜び、カカシは不満そうにぼやき、オビトは青くなった。 「何、オビト。この子のこと知ってるの?」 「この子はうちはイタチ。オビトとは親戚だからよく知ってるよね?」 カカシの問いに、オビトに代わって四代目が答えた。 「この子のご両親が任務で一日不在でね、僕が預かる事にしたんだけど急に任務が入っちゃって」 「そいういう事なら、俺は先生と一緒に__」 首を横に振って、四代目はカカシの言葉を遮った。 「任務はチームで遂行する。それが鉄則だよ?」 「だからって、何で中忍の俺がDランクレベルの任務なんか…」 「これは正式なCランク任務だよ。依頼主はこの僕だ」 四代目の言葉に、カカシとリンは顔を見合わせた。 「どうして単なる子守がCランクなんですか?」 「んー、だってこの子は名門うちは一族の次の当主だし、何より怪我でもしてこんな可愛い顔に傷がついたら大変だろ?」 そろそろ時間だから行かないと、と言って、四代目は抱いていたイタチを下に降ろした。 そしてイタチの前にしゃがみ、優しく頭を撫でる。 「折角、今日一日キミと一緒にいられると思ってたのに残念だよ…」 「……」 「夕方には迎えに来るから、それまでカカシ君たちと仲良くしててねv」 じゃあ、頼んだよと言い残して、四代目はその場を去った。 「……何だか先生、みょーにこの子に固執してナイ?」 ぼやいたカカシに軽く笑って、リンはイタチに向き直った。 「気持ちは判るわよ。こんなに可愛いんですもの__ねえ、イタチちゃん、歳はいくつ?」 「……」 「…3歳だよ、多分」 リンの問いに、イタチに代わってオビトが答えた。 「男の子?女の子?」 「……」 「男の子だよ、一応」 「えー、こんなに可愛いのに!?」 「…どこが可愛いんだよ。無愛想だし」 はしゃぐリンの横から、カカシが不満そうにぼやいた。 「無口なのは人見知りしてるからよ。そういうところも可愛いじゃない。何でそんなに突っかかるのよ」 「リン、止めとけって。中忍さまが俺たち下忍と一緒の任務じゃ不満なのも当然だろ?」 オビトの嫌味に、カカシは鋭く相手を見据えた。 冷たい殺気に、オビトはごくりと唾を飲み込む。 四代目の命令でカカシはオビト達とスリーマンセルを組まされたのだが、5歳で下忍、6歳で中忍となったカカシには既に前線経験もあり、下忍の二人とは実力が釣り合わない。 里が平和なのは表面だけで、すぐにも大戦が勃発しそうな一触即発の状態で危うい均衡が保たれているだけなのだと感じ取っているだけに、子守や失せ物探しなどの任務に駆り出される事に苛立ちを感じるのだ。 「下忍と一緒の班なのが不満なんじゃ無い。いかにも平和ボケした危機感の無さが耐えられないんだ」 カカシの言葉に、オビトも黙っていられず言い返す。 「平和ボケで悪かったな!大体、お前は仲間意識って物が欠けてるんだ」 「ちょっと…止めなさいよ二人とも。イタチちゃんが怖がる__」 「ちゅーにん?」 言い争う二人を止めようとしたリンの言葉は、イタチの発言に遮られた。 険悪な雰囲気などまるで気にも留めず、とてとてとカカシに歩み寄る。 そして、もう一度、同じ言葉を繰り返した。 「ちゅーにん?」 「あ…あ。俺は中忍だけど」 「つおいの?」 「強いのかって?まあ、オビトよりは」 カカシの台詞に、オビトは歯噛みし、リンは肩を竦めた。 いがみ合う二人に背を向け、イタチに話しかける。 「それよりイタチちゃん、何して遊びたい?」 「しゅぎょー」 イタチの言葉にオビトは青くなったが、カカシとリンは気付かなかった。 二人は並んでイタチの前にしゃがみ込む。 「オマエ、次期うちは当主だそうだけど、何か術は使えるの?」 「バカね、カカシ。こんな小さな子が術なんて…」 「ごーかきゅのじゅつ!」 「うわっ、イタチやめろ……!!」 暫くの間、カカシとリンは半ば呆然とイタチを見つめていた。 咄嗟に避けたカカシと、止めに入ったオビトが盾になった為にリンは無事だったが、そのオビトは顔面に軽い火傷を負って転げまわっている。 3歳の次期うちは当主は、小さいながらも確かに火の玉を吹いた。 火遁を発動させたのだ。 「……やるね、このガキ」 ぽつりと、カカシは呟いた。 その言葉にリンは我に返り、苦しむオビトに駆け寄った。 医療術を施し、火傷を癒す。 幸い軽症だったので、すぐに炎症は治まったが、ほんの僅かに跡が残った。 「オビト、大丈夫?」 「だからオレはイタチの子守なんかしたくなかったのに……」 「だからDではなく、Cランクなワケね」 マスクの下で、カカシは薄く笑った。 それから、改めてイタチに向き直る。 「今の何て術?」 「ごーかきゅのじゅつ」 「合格の術……?変な名だな。他に何が出来んの?」 カカシの問いに、イタチは再び印を組み始めた。 「すいかだんの__」 「うわあぁぁぁぁっ!!やめろイタチィィィィ!!」 叫びながらオビトがその場から数メートル飛び退り、カカシとリンも退避姿勢を取った。 イタチはきょとんとした表情で3人を見上げ、小首を傾げる。 「あそばないの?」 「…この子、忍術や修行を遊びだと思ってるのね…」 「スイカ弾の術なんて、変な名前」 唖然とするリン。平然と言うカカシ。 そしてキレるオビト。 「何、落ち着いてんだよカカシ!それにイタチも、まだ早すぎるから忍術なんか使っちゃいけないって父上に言われただろ?」 「やだ。あそぶ」 「やだじゃない!それに忍術は遊びでも無い!!」 「おびと、よわい」 「★◎◇$▽×▲☆〜〜〜!!!」 言葉にならない呻きを発し、地団太を踏んで悔しがるオビトの肩を、ポンとカカシが叩いた。 「気にするな、オビト。本当のコトなんだし」 「なお悪いわっ!!」 「それに、俺も3、4歳の頃から父さんに術を教わってたし、別に早すぎるって事は無いんじゃナイ?その才能があるんならね」 「監督者付ならまだマシだけど、こいつは勝手に巻物広げてところ構わず術を発動させるから問題なんだ!」 この前なんかそれでボヤ騒ぎを起こしたんだぞ、というオビトの言葉に、流石にリンが眉を顰めた。 「それで、どうなったの?」 「…イタチが水遁の術で消し止めた」 「だったら良いじゃん」「だったら良いじゃない」 良くねえ__叫びかけて、オビトは止めた。 今日は自分ひとりがイタチの子守なのではない。 3歳で術が使えるなどオビトから見たら化け物以外の何者でもない。 だったら化け物の世話は化け物に任せておけば良いのだ。 何かあってもリンがどうにかしてくれるだろう。 「巻物を見て自分で術を覚えたの?」 改めてイタチに向き直り、リンが聞いた。 しゃがんでしまうと退避行動が取り難いので、立ったままだ。 イタチは黙ってこくりと頷いた。 「でも字は読めないんでショ?」 カカシの問いに、再びこくりと頷く。 「印の図解だけ見て自分で覚えたってワケね。それじゃ発動するまでどんな術か判らないから、ボヤ騒ぎも起こすわけだ」 「色んな意味で凄いわね……。でもそれなら、どうして術の名前が判るのかしら?」 「自分で適当につけたんじゃナイ?変な名前ばかりだし」 「そういえば、前は術の名前なんか言ってなかった」 カカシとリンの会話にオビトも加わり、三人で首を傾げたその時。 「ただいまー♪」 能天気な台詞と共に現われたのは四代目だ。 「先生、随分はやかっ__」 「ああもう、寂しかったよ〜。イタチ君、元気にしてた?」 カカシの言葉を無視して、四代目はイタチを抱きしめて頬擦りした。 イタチはちょっと迷惑そうな顔をしているが、四代目は全く頓着しない。 「君に逢いたくて急いで任務を終わらせてきたんだv」 夕方までかかる筈の任務をどうやって数十分で終わらせたんだ…? しかもわざわざ飛雷神の術を使って戻って来るなんて…… カカシ達三人は同時に同じ事を思った。 が、言葉には出さなかった。 口を開けば言ってしまいそうだったからだ__先生って、ショタ?と。 「カカシ君たちに苛められなかった?」 四代目の問いに、苛められたのはこっちだとオビトは思ったが、流石に惨めなので口には出さない。 イタチは黙ったまま、こくりと頷いた。 「それじゃ、あとは今日一日、僕と遊ぼうか?」 「あそぶ♪」 それまでずっと無表情だったイタチの顔に、笑顔が浮かんだ。 ほぼ同時にオビトの顔が引きつる。 「……もしかして、イタチに術を教えてたのって先生……?」 「そうだよ?」 「★◎◇$▽×▲☆〜〜〜!!!」 再び言葉にならない呻きを発し、地団太を踏んで悶えるオビトを、四代目は不思議そうに見つめた。 「オビト…どうかしたの?」 「先生は素直すぎるんです__欲望に忠実というイミで」 「……は?」 自分が溺愛する3歳児の笑顔を見たいがために親の制止も無視して術を教え、周囲を危険と騒動に巻き込んだ張本人は、整った顔に不思議そうな表情を浮かべ、小首を傾げたのだった。 後書のようなもの 50000ヒット&2周年記念のリクエストにお応えしてみようシリーズ第2弾(第1弾は12国記)です。 一応、四イタです; こういうのを期待されてたワケじゃないかも知れませんが、四代目が亡くなった時、イタチさんは5歳だったから四イタというとこういうのしか浮かばなくて……;; あと、某サイトさんの日記にあった3歳児イタチちゃんが激可愛かったので、書いてみたかったんです(^^ゞ 時代設定は第3次忍大戦が始まる前の表面上は平和な時代。四代目班は結成されたばかりでまだチーム意識も出来ていなかった頃です。 書き終わってから資料を調べたらオビトとリンの中忍昇格は11歳だと判明したので、イタチさんが3歳の時には二人とも中忍だった事になる筈ですが、ストーリーの都合上、下忍にしてみました; 追記:更に調べてみたら(最初に調べろって;)オビトとリンの中忍昇格はイタチさん3歳の年なので、このオハナシは昇格前の出来事……で収まるようです;; BISMARC back |