トリオで遊ぶオラクル様



「たでーま」
いつもの様に<ORACLE>に戻ったオラトリオは、幽かな違和感に、眉を顰めた。

何かが、いつもと違う。

「わ〜〜〜vかっわいい〜〜〜vv」
頭の上から声を掛けられ、オラトリオはやや驚いて相手を見上げた。
オラクルが、遥か上からこちらを見下ろしている。
オラクルが突然、巨大化!?__した訳ではない。オラトリオが小さくなったのだ。
<ORACLE>に入った時に感じた違和感はそのせい。
「……にゃっ…にゃにするにゃッ……!?」
異常事態に驚くオラトリオは、オラクルにひょいと抱き上げられ、更に驚いた。
「……オ、オラトリオが……、にゃ、だって〜〜〜〜vv」
驚くオラトリオとは対照的に、オラクルはころころと楽しそうに笑った。
唖然とし、オラトリオは自分の姿をチェックした。
ネコ耳。
鈴の付いた首輪。
縞々の尻尾。
ピンクの肉球のある手(前足?)
「……にゃ……にゃんじゃこりゃ〜〜〜!!??」
電脳空間最強の守護者は、寅縞の仔猫になっていた。

「オ〜ラ〜ク〜ル〜。今回はどーゆー悪ふざけだ!?」
オラクルは時々、とんでもない事をしでかす。
<ORACLE>中を雪だるまで埋め尽くしたり、その中でペンギンと一緒に遊んだり。
<ORACLE>の中に海を構築して、ホールがビーチになっていたり。
エモーションやシグナルを呼んで、<ORACLE>でイチゴ狩りツアーをやったり。
しかも本人はいたって真面目に現実空間を疑似体験している積りなのだから、却って始末に終えない。
オラクルにも気晴らしは必要だからと、オラトリオは大概の事は大目に見ているし、時には一緒になって遊びもする。
が。
今回ばかりは大目に見てはいられない。
「良いじゃないか。とっても似合ってるし」
「そーゆー問題じゃにゃい!」
「にゃい、だってー。可愛い〜〜♪」
オラクルにぎゅっと抱きしめられ、オラトリオは思わず脚をばたつかせた。
だが、暴れても無駄。
今のオラトリオは身体も小さければ力も仔猫並み。
尤も、<ORACLE>内部ではオラクルに全ての優先権があるので、体格で勝っている時でも力ずくでオラクルの意志に反する事をするなど出来はしないのだが。

「お前にゃー、こんな時に侵入者が来たらどーする積りだ!?」
オラトリオの言葉に、オラクルの表情が不安そうに変わる。
その顔を見て、オラトリオは言った事を後悔した。オラクルを不安がらせる積りなど無かったのだ。
「……大丈夫だよ。その時にはすぐに戻すから」
「…それにしても、何でこんな事しようと思いついたんだ?」
気を取り直してオラトリオが問うと、オラクルはもう一度、オラトリオを抱きしめた。
「こうやって、お前を抱きしめたかったから」
甘い言葉に、オラトリオの頬が幽かに赤く染まる。
「……何も俺を仔猫にしにゃくたって、良かっただろーが」
「駄目だよ。私の腕の中にすっぽり納まるくらい、小さいのが良かったんだから」
「……はぁ?」
オラクルは軽く苦笑し、それから間近にオラトリオを見つめた。
「お前に抱きしめられているとすごく安心できる。侵入者が襲ってきた時でも、恐怖を和らげてくれる。だから私は__」

お前にも、安らぎをあげたくて

半ば驚いて、オラトリオは相手の雑色の瞳を見つめ返した。
「気づいてたの…か?」

<ORACLE>を酷く手ごわい侵入者が襲撃したのは、3週間ほど前の事だ。
オラトリオは全力で戦い必死に侵入者を撃退したが、酷く苦戦し、何箇所も深い傷を負わされた。
音井教授の調整を受け、傷はすぐに修復された。
だが、オラトリオの心の奥底に、侵入者に対する幽かな恐怖が植え付けられた。
無論、<ORACLE>を護る為ならば、自らの『生命』を犠牲にする事も厭わない。
自分の役割を受け入れ、誇りにすら思う。
それでも、恐怖を感じるのは防ぎようが無い。

「お前の事は、誰よりもよく見ているから」
言って、オラクルはどこか寂しげに微笑した。
「私は戦う事が出来ない。自分の身を護ることも。だから……」

せめて、お前に安堵と安らぎを

オラトリオは爪のある前足の代わりに、尻尾で器用にオラクルの手を撫でた。
「いつだって、俺はお前に癒されてるぜ…?」
「うん…。でも、今日は特別に」
言って、オラクルはもう一度しっかりとオラトリオを抱きしめた。





その日、<ORACLE>では安心しきった顔で眠りこける仔猫な守護者と、それを見守る管理人の幸せそうな姿が見受けられたとか。




back