「イルカ先生が俺を待ってるって♪」 すっかり夜も更けた木の葉隠れの里を浮かれた上忍が走っていた。哀れな彼はそれまでに行われた秘密の撮影会の事は何も知らない。ただ、やはり仔イルカはカカシでなければとの火影判断を聞いて浮かれているだけだった。 「報復じゃなかったんですか? あれじゃ、あの変態を喜ばすだけ……」 こっそりとその姿を見て悔しそうにイノが呟く。 「まあ見てなさい。幸せなのも今だけよ」 紅が微笑んだ。 「イルカ先生、ちょっと大きくなった?」 渡された仔イルカにカカシは目を見開いた。別れた時は6歳児だった仔イルカは10歳くらいまで成長している。 「前のも可愛かったけど、今もかーわいいv」 6歳児は素直にすりすりされていたが、10歳児はすりすりされると嫌がる。それがまた可愛い。 「今日はね、俺と一緒に家帰ろうね。一緒にお風呂入って寝ようねー」 変態一直線だった。嫌がるだろうと記憶の混乱をいいことに火影が言いくるめていなかったら、仔イルカはすぐに逃げ出していただろう。ついでに火影の配慮によって(?)仔イルカは言葉が喋れないようにされていた。里の臨時収入のためとはいえ、極秘の撮影会で年齢を多少上げたのが仇になっていた。6歳児にはカカシも手を出さないだろうが、10歳児ではボーダーライン(カカシには)。だが、口が聞けず承諾の意を得なければカカシも手を出しにくいだろうと――それくらいでカカシが止まるかとアスマが呟いたのは全員の心境だったりする。 変態でもカカシは仔イルカには優しい。怖がらせないようにそっと扱ったのがよかったのか、ただたんに眠かったのか、布団に入った時には仔イルカは警戒もせずにカカシの腕の中で眠っていた。 「イルカ先生。イルカv 明日も一緒に遊ぼうねー」 里中駆け回って仔イルカを探していたせいか、カカシもすぐに目をつぶる。寝静まった後に、小さな蟲が蠢いてイルカのチャクラを食べていった。 「うわああああああ!!」 可愛い幼な恋人のキスで目を覚ましたいv 野望はあっけなく崩れ、カカシはイルカの叫び声で目を覚ました。 「あ、イルカ先生、元に戻っちゃったんですか」 残念そうに、だがこれでいちゃいちゃし放題(カカシドリーム)と呟いたカカシをイルカがぎっと睨みつけていた。 「カカシ先生、あんた、いったい俺になにやったんですか!?」 「へ? 覚えてない…?」 子供だった時のことを覚えているはずなのにとカカシは首を傾げる。女装やら撮影会やら、都合の悪いことを覚えられているとまずいと、火影が仔イルカに術をかけたことはカカシは知らなかった。記憶を完全に消されたイルカもそんな事情はまったく知らない。 「覚えてませんっ!」 悲鳴をあげるように叫ぶイルカは服をまったく身に纏っていなかった。子供から大人になったためにサイズが限界で破れただけなのだが、今までの変態ぶりを知るイルカにはカカシがイルカの服を破いて脱がせたように思える。 「イルカ先生、あのですね、昨日、イルカ先生は任務の帰りに巻き込まれた戦闘で子供返りしてしまって……」 カカシを睨みつけていたイルカがああ、と呟く。 「確かに何か変な術を受けかけた覚えがあります」 納得してくれたとカカシは安心した。だが、イルカは今まで以上にカカシを睨みつけた。 「つまり、カカシ先生は子供になった俺に手を出したんですか。それも服を破いているっていうことは無理矢理!!」 誤解ですとぷるぷるぷると首を振ったが、イルカはすうっと息を吸い込んで怒鳴った。 「変態だ変態だとは思ってましたが、あんたはすでに変態通り越して犯罪です」 「イルカせんせえ〜〜」 仔イルカにらぶらぶを刷り込んでおいて大人に戻ってもイチャラブをどころか、変態犯罪者扱いで軽蔑の目で見られ、カカシは泣きそうに顔を歪ませた。 「お、俺、まだ何もやってませんーー」 「……『まだ』って……、たとえ昨日は未遂だったとしてもやるつもりではあったんですね。だいたい、子供の俺を裸にした時点で犯罪者です」 イルカは冷たかった。 「違うんです、誤解なんです、イルカ先生。あ、そうだ。アスマや紅に聞いてもらえばわかります。不可抗力だったんですっ!」 必死に叫ぶカカシの無実をアスマも紅も保証してくれるどころか、イルカの疑念を後押しすることをカカシは今はまだ知らなかった。 「うふふ、これでどう? イノ」 こっそりイルカの家を窺っていた紅が言った。 「紅先生、最高です。一生ついて行きます〜〜vv」 目を輝かせてイノがうなずく。 「「女には絶対逆らわねー」」 朝まで付き合わされたアスマとシカマルの師弟が目を交わして呟きあった。 +++++ 後日譚 +++++ イルカには子供返りしていた時の記憶は残っていなかった。普通に術が解けていたのなら残っていただろうが、それではまずい者たちが幾人かいたのだ。 言うまでもなく、仔イルカ可愛さに暴走した上忍や火影がそれであったが、もう一つの理由もあった。 それは。 『全身緑タイツ男』への刷り込み予防……。子供返りしたイルカは何故かガイとリーを非常に気に入っていた。格好が面白かったのか、ゲジ眉のインパクトが強かったのか、それは謎だ。 だから、その時の記憶は特に気を付けて抹消されたはず、だった。皆そう思っていた。 「あ、ガイ先生」 何故か条件反射でぽっと頬を赤らめるイルカを見るまでは。 「い、い、い、イルカ先生ー、何ですか、その反応は!?」 変態犯罪者認定されても懲りない写輪眼が叫ぶ。イルカも自分の反応を不思議に思いながら、ガイを見つめた。 「なんだかガイ先生見てると、ほっとするっていうか、懐かしいっていうか、ドキドキするっていうか……」 「ははははは、イルカ! 青春してるな」 ガイが何も考えていないのはいつものことだった。ますます顔を赤くしてガイを見つめるイルカ……。 「駄目ですっ! イルカ先生、ゲジ眉に惑わされちゃ駄目ですーー!」 受付は今日も賑やかです。 back |