仔イルカ父は家に帰ってきて泣きたくなった。 なにやらわけのわからない争いをする自分の妻と上司(四代目)、大声で泣き喚く青年(どうやらチャクラから見るとカカシらしい)、それを見張る里の3大怪獣3匹。 こんなものが帰ってきて早々目に入ったら、誰でも嫌になると思われる。 イルカ父はイルカ母と四代目をチラッと見た。 イルカ母はとても穏やかな人だった。穏やかで優しい、ほのぼのとした女性だった。イルカ父も実はそういうタイプらしい。2人が結婚した時、似たもの夫婦だと周りによく言われたものだった。 だが、今のイルカ母にその面影はあまりない。家の中にいると、以前どおりの女性なのだが、母は強し。イルカが絡むと豹変する。いや、四代目とカカシがイルカに絡むと。 イルカ父は今までその理由を深く考えたことがなかった。そうするにはちょっとばかし忙しすぎたのだ。 四代目は一応人格者だ。だから火影四代目なんかになれる。その弟子のカカシも最初はぐれていたが、近頃はすっかり落ち着いた。だからこの2人が自分達の子供を可愛がってくれる分には何の問題もないと思う。 だが。 「イルカは絶対に渡しませんっ! 誰が可愛い子供を衆道の変態なんかにっ!」 イルカ母は相手が火影だということも忘れてヒートアップしていた。 「確かにぼくの行く道は修羅の道……だからこそ、心の安らぎ、イルカちゃんが必要なんだ」 四代目はもっともらしく聞き違いをしていた。 「そんな道、一人で歩いてください。いえ、弟子のカカシ君がいるでしょう、同じ衆道仲間が。それで満足してください」 「ふっ、カカシ君も同じ修羅の道を行けってお母さんはおっしゃるんですか? 血塗られた道を弟子に歩かせるなんて、師匠としては出来ません。しっかりと! 改心させてみせます。でなきゃイルカちゃんには二度と近寄らせません」 「カカシ君がイルカに近づかないのは嬉しいですけどね、私としては四代目にも近づいて貰いたくないんです」 「お母さん、そんな酷い!」 「だから、誰があなたのお母さんですか――――!!!」 ………何となく事情はわかった……。だが、わからないままでいたほうがよかった……。イルカ父はため息をつく。 そして今度は怪獣、もとい、口寄せ獣達にいじめられている銀髪の青年に目を落とした。 「せっかく、せっかく大人になってイルカとらぶらぶしようと思ったのに、酷いよー」 銀髪の青年――カカシの大人変化はさっきから口寄せ獣たちにこづかれている。 「ふん、ガキが100年早いんじゃあ」 蝦蟇に舌でつつかれ、 「生贄にしたろうか……」 不気味な蛇の尻尾で転がされ、 「……………」 温和な蛞蝓にまで嫌がらせなのか、小さい分裂蛞蝓を頭からかけられている。 自分の息子は、といえば、 「どうしてカカシちゃんと遊んじゃ駄目なの〜?」 えぐえぐ泣いては、 「イルカさん、もう少し自分を大事にしなければいけませんよ」 穏やかに蛞蝓にたしなめられていた。 「イルカ」 イルカ父はそっと息子に声をかけた。 「とーちゃん」 途端に嬉しそうににぱーと笑顔になる。今泣いたカラスが…といっても早すぎる。単純思考の息子にイルカ父は少し頭が痛くなった。この分だと、何も考えずにカカシと遊んでぱっくりと喰われて……。 「とーちゃん、あのね、カツユちゃん達がカカシちゃんと遊んじゃ駄目って言うの。らぶらぶしちゃ駄目って言うの〜」 再びイルカが涙目になる。 「らぶらぶ……は、まだ早いと思うよ、イルカ」 ため息をつきながら指摘すると、イルカは不思議そうに首を傾げた。 「らぶらぶって駄目なことなの?」 イルカ父の頭にはいかがわしい行為が浮かんでいた。思わず顔が赤くなる。間違っても8歳の息子には早すぎる行為だ。 「それはね……」 だが、どう説明したらいいのやら。悩んでいると、カカシの泣き声が聞こえた。 「い、イルカとおんなじ家に住んで、一緒にご飯食べて、お布団入るんだ。らぶらぶ新婚生活、大人になったんだからできるはずなんだから」 訴える。 「……………お布団入った後は?」 イルカ父は突っ込んでみた。 「一緒に寝るに決まってるじゃん。布団入ったらすぐに目つむらないと駄目なんだからっ」 カカシが言う。なにやら微妙な沈黙があたりに漂った。 「………あほらし……」 最初に消えたのは蝦蟇親分だった。 「すぐに食わんでもいいか」 マンダも馬鹿らしさに食べる気が消えたようだった。 「それでもイルカさん、自分の身は大事にしてくださいね」 優しくカツユが言い聞かせ、消える。 「12歳で、それでいいのかねえ…」 自来也様と四代目がそばにいるからてっきり。イルカ父も呟いた。イルカがきょとんと首を傾げた。 「みんなお帰りしちゃったー。カカシちゃんと遊んでいいの?」 わーいわーいと外見26歳青年と7歳少年が手を取り合って飛び跳ねる。 「あー、イルカ。らぶらぶ新婚生活は本当の大人になってからな。カカシ君もまだ子供なんだから自分の家に帰らなきゃいけないんだからね」 「はーい」 おりこうさんな返事。カカシもとりあえず遊べるだけでいいかと、思い直したらしく、コクンとうなずく。 「イルカはカカシ君が好きなんだねえ」 しみじみイルカ父は呟いた。 「イルカがいいなら私はそれでいいけど……」 あれを納得させるのは大変そうだ。イルカ父はまだ言い合いをしている妻と四代目、そしてさっき消えた3大怪獣を思って人事ながらため息をついた。 back Wall Paper by Laboheme |