カカシ少年はある決意を固めていた。
 いつもいつもいつもいつも! 大人だというだけでいいとこをすっぽり攫っていく四代目に目に物見せてやる! 拳をぎゅっと握り締める。
「そんでもって、イルカは俺のもんだーーーーー!!!」
 叫ぶ覆面少年を回りの通行人は薄気味悪そうに遠巻きに見ていた。


 カカシ少年は恋するお年頃だった。相手は黒髪つややかな可愛い系美人、イルカちゃんだ。イルカがカカシ少年よりさらに年下だってことや、実は性別が同じだっていうことはまあ置いといて。最年少中忍昇進記録や暗部経験ありのお子様にしてはとてもとても純情一途な恋だった。
 だがもちろん、恋あるところに障害あり!
 年齢のことを気にする(それよりもっと同性同士だということを気にしていると思う)イルカ母、それはまあいいだろう。親が子の恋に反対するのはつきものだ。親の反対を押し切って手に手を取って駆け落ちというのもロマンチックだし、イルカ母に『イルカを俺に下さい』と土下座なんかして、結婚の許可を取り付ける、それが醍醐味というものでもある(普通はイルカ父にでわ?)。
 何よりの問題は、だから四代目だった。カカシの師匠であり、イルカに関してはライバルなのだ。
「イルカちゃんのお婿さんの座はぼくがもらうからね」
 大人だから今すぐお婿に行ってもOkだもんねーと、大人気なく弟子のカカシに自慢(?)する火影四代目。今はイルカ母が婚約者・カカシのために(カカシ少年ドリーム)それを阻止してくれているが、相手は四代目の火影。いつ何時、その権力でイルカを無理矢理嫁にしてしまうか分からない。
「こうなったら、俺だって実力行使だ」
 カカシ少年は愛するイルカのため、燃えていた。



 子供の姿では四代目には絶対に敵わない。ここはやっぱり、
「変化!」
 ぽふんと煙をたてて大人の姿になる。12歳の現在より14歳上の26歳、四代目にも負けないいい男ぶりだ(カカシ少年ドリーム・笑)。姿は変わってもチャクラが変わるわけでもなし、それ以上にイルカなら二人の愛でこの大人カカシがカカシだとわかってくれる。
 カカシはらったらったらんと嬉しそうにスキップしながらイルカの家へと道を辿った。カカシが子供だから婿に入れるのを今はまだ反対しているイルカ母も(しつこく、カカシドリーム)大人になったカカシにならOKをくれるだろう。もう四代目に狙われることもなく、横取りされることもなく、2人のらぶらぶ新婚生活が始まる……。
「イルカー! 待ってろよー」
 スキップしながら男の子の名前を叫ぶカカシ少年(見た目は大人)は、ほとんど変質者だったり。



「イッルカちゃん♪」
 今日も楽しく明るく、火影の仕事を放って可愛いイルカの顔を見にやってきた四代目は顔を顰めた。なにやら怪しい気配が近づいてくる。
 最大の邪魔者・三代目は(カカシ少年はライバルの欠片にも入れてもらえていなかった)、饅頭を餌にして自分の代わりに執務室に閉じ込めてきた。いくら火影三代目でもピチピチ最盛期の四代目の封印を破るのにはまだまだ時間がかかるだろう。変態三忍・自来也は口寄せカエルの反抗期で、それの説得に捕まっている。反抗期どころか、蝦蟇親分はいつも召還した相手に刃向かってばかりいる。刃向かわなかったのは可愛いイルカくらい。そして四代目は蝦蟇親分お気に入りのイルカの将来の婿!ということで、自来也よりかは目の端に入れてもらっていた。
「蝦蟇親分に自来也の変態ぶりをとくとくと言って聞かせただけでこうなるとは……」
 よくよく蝦蟇達に信頼されていないんだなあと、四代目は自分の師匠ながら気の毒になってくる。特に近頃のお稚児趣味を教えてやったのがよかったのかもしれない。蝦蟇親分とその率いる蝦蟇一族は当分の間、自来也には絶対に召還されないだろう。そしてそれでは商売上がったり(?)の自来也は、蝦蟇親分が機嫌を直してくれるまで、延々説得に引きとめ続けられる。
 可愛いの大好き綱手も大蛇丸も、似たような手段で大人しくさせてある現在、四代目とイルカのらぶらぶ時間を邪魔するものはいない、はず。
「まさかカカシ君が、とか?」
 まだまだ小僧っ子の弟子の顔を思い浮かべて四代目は失笑した。
「あの子にそんな甲斐性はないね」
 ……酷い師匠だった………。
 だが、近づいてくる気配はカカシのものによく似ている。
「ちょっと違うけどねー。うーん。なんか術を使ってるっぽい?」
 そして目を丸くした。見えてきたのは大人の姿をしたカカシ。
「単純馬鹿ーー。誰に似たのかねえ」
 師匠として、ちょっと将来が不安になった四代目だった。



「お兄ちゃん、誰ー?」
 イルカの無邪気な一言にカカシが固まっていた。イルカはまだ子供。チャクラが同じとかなんてわかりはしない。それも普通ならともかく術によって多少なりとも変質しているチャクラの区別など。
 こうなるとは思っていたけれど気の毒に…、そう思った四代目は慰めるようにぽんとカカシの肩を叩いた。
「せんせえ……」
 ちょっぴり感動したカカシ少年は泣き笑いをし(注・大人の姿のまま)、大人なのに変なのーとイルカに指さし確認されて傷を深くしていたり。
 それでもカカシ少年は健気だった。ちょっと順序を間違っただけさ、すぐにでもらぶらぶな婿入りをするために変化するんだよと説明して、イルカの目の前で大人になればこんなこともなかった。俺の愛はイルカにはちょっと重すぎたんだね、とわけのわからない納得をして。

「あれ?」

 とりあえず解くつもりの変化が解けない。
「あれ? あれ??」
 なんどやっても。解けない。
 カカシはぎぎぎぎぎーと音をたてながら首をひねった。原因は間違いなく四代目。さっきの慰めの『ぽん』の時に変化が簡単に解けないよう継続の術を重ねがけしたのだろう。潜入の任務の時には結構使われる技だ。だが、今は継続しなくてもいい。イルカにこの大人カカシがカカシだと認識させてから、それならいいのに四代目と来たらにっこり笑ってイルカに説明していた。
「あのね、イルカちゃん。この子…この人はカカシの生き別れのお兄さんで、はたけミミズっていうんだよ」
「ミミズお兄ちゃん、はじめましてー」
 ……せめてもっと素敵な偽名を……。別人と思われていてもイルカには悪く思われたくないカカシがひきつりながら笑顔を返す。
「せんせえ、ミミズって何ですか、ミミズって」
「しっ、カカシ君。君は変化も上手く操れず、解くことが出来なくなった間抜け上忍とイルカちゃんに思われてもいいのかい? せめて別人に思わせてあげようという師匠の愛がわからないの? それに、ミミズに何の不満があるんだ。ミミズは畑の宝石……これ以上ない素晴らしい名前じゃないか」
 こそこそこそと師弟はイルカに聞こえないように会話を交わした。
「うっ。確かに案山子より蚯蚓のほうが扱いいいかも」
 単純に誤魔化されているカカシ少年だった。








「あら四代目、いらっしゃったんですか?」
 なんだかとても失礼な言い方で、イルカ母が挨拶した。イルカ母にとっては四代目もカカシ少年も里の誉なんてもんじゃない。ただの我が子を狙う変態ショタ師弟だ。イルカ母は四代目についてくる見知らぬ青年の姿に顔を顰めた。
「………なんだかカカシ君に似てますわね」
 上忍のイルカ母にはばればれなのだろうが、はっきりカカシと断定しないのが、嫌味。カカシも四代目も引きつった笑みを返した。
「あのね、あのね、カカシちゃんのお兄ちゃんでミミズお兄ちゃんって言うんだって」
 一生懸命仔イルカが説明する。『ミミズ』の名前にイルカ母は噴出しそうになった。
「ま、まあ。素敵なお名前ね。それでどうしてここへ?」
 ずばっとイルカ母は本題に入る。イルカ母にも別人認定を受け、カカシは困ってしまった。これではイルカの婚約者(……)・カカシとして、婿に入れてもらえない。うるうるうると目を潤ませて、カカシは四代目に目で縋った。それを放っておく四代目ではない。にっこりと優しい優しい笑みを返す。
「お義母さん」
「…四代目に母と呼ばれる覚えはありません」
 きっぱり訂正されても四代目はひるまなかった。
「実はミミズ君はカカシ君を迎えに来たんです。はたけ一族が長年生き別れになっていたカカシ君を探していて……」
「せんせえ?」
 カカシが四代目の服を引っ張るが、四代目はそれも無視した。
「今日はイルカちゃんにミミズ君からお別れを言いに――」
「はあ」
 イルカ母は引きつってショタ師弟を見た。イルカが
「カカシちゃん、どっか行っちゃうの? やだよう」
 泣いている。だが、カカシはそれ以上に泣きたい気持ちだった。
「大丈夫、カカシ君。四代目火影として今の発言に責任持って、君を長期遠征任務につけてあげるから。その間、僕は友達と別れて淋しいイルカちゃんをしっかり慰めて……v」
 やたら『友達』を強調しながら、四代目はにへらっと笑った。この分だとどういう『慰め』になるかわかったものじゃない。イルカ母はすうーっと息を吸い込んで気持ちを落ち着かせると、にっこりと笑った。
「まあ、それは残念ですわね。イルカも友達が2人も減ってしまって」
「「2人?」」
 大人(とカカシ少年)のやりとりにも気付かず、イルカはえぐえぐ泣いている。その頭の上で、仔イルカの未来を賭けた争いが勃発しようとしていた。
「ええ、2人です」
 イルカ母は相手が四代目でも負けてはいなかった。
「ああ、ミミズ君とカカシ君ってこと――」
「じゃありません。カカシ君と四代目のことですv カカシ君が長期任務に行くなら、当然、師匠の四代目も一緒に行かれるんでしょう? そうでしょう?」
「え、その、だからカカシ君はミミズ君とはたけの星に」
 すでに四代目のホラも怪しくなっている。
「それに四代目もついていかれるに決まってます。なんといってもイルカが尊敬する四代目ですからね。弟子を1人だけではたけ星に行かせるわけありませんわ」
 ……はたけ星ってなんだろう。イルカ母もかなり話の内容が破綻してきていた。
「ちょ、ちょっと待ってよ、お義母さん。ミミズとカカシははたけ星で雀や害虫から作物を守っていかなければならない運命だけど、僕は違うよ? 僕はこの木の葉の里を守るため……」
「私は四代目の義母ではないから、今の言葉は聞いていませんからね。四代目ははたけ星を守るため、立派に散ったとイルカには伝えておきます。キラキラと輝くはたけ星…。それは四代目が弟子とその故郷を守るために散った姿…」
「ちょっと待ってって。何で僕が散るの。散るならカカシ君でしょ? で、弟子の敵に敢然と立ち向かうってのが」
「そんなかっこいい役割、四代目には似合いません」
「そこまで言うーー?」
 呆気にとられて四代目とイルカ母の舌戦(になるのか、これも?)を眺めていたカカシの服をイルカが引っ張った。
「ミミズお兄ちゃん、カカシちゃん連れてっちゃヤダ……」
「…………」
 それだけで幸せになった単純カカシはそろそろとイルカの手をとって争いの場から逃げ出した。
「行かないよ。俺、本当はカカシだもん。さっきのは先生の冗談」
「? 冗談? 何でミミズお兄ちゃんなの?」
「えっと、変化の術練習してて、戻れなくなっちゃって。恥ずかしいから、先生が誤魔化してくれてたんだ」
 人間素直・正直が一番。カカシは師と未来の義母の嫌味合戦を間近で見て悟っていた。実際、
「わーい。カカシちゃんでも間違えることあるんだ。ぼくと一緒v」
 にこにこっとイルカが笑ってくれたりなんかする。カカシもにへーっと笑った。
「今日は一日多分大人の姿だけど、遊ぼ、イルカv」
「うん」
 にこにこと見た目大人とお子様1人は手を繋いで遊びに出かけていった。遊ぶといっても暗部育ちの物知らずのおかげで、カカシ少年が大人の姿の利点を生かした『遊び』をしようとしなかったのはよかったが、周りから見れば充分怪しい。
「イルカを離せーーーー!」
 変態に攫われる仔イルカの危機の報せに里の巨大怪獣3匹――蝦蟇・蛞蝓・蛇に囲まれ引き離される羽目になるのはすぐのことだった。



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