著・前田みや
雑記帳



 サンタクロースのプレゼントは靴下に入っているものだよね? どこから聞きつけたのか、オラクルが言い出したのはクリスマスももう目前、あと一ヶ月というところになってから。
「まあ、一般的にはそうだよな」
 オラトリオもあいまいに頷く。まさか靴下も用意するって言うんじゃないだろうな。すでにちょっと引き気味。なにせ100人からいる子供の数だけの靴下、ただ用意しただけではどれが誰のやらわからなくなってしまうだろう。となると、名前も入れて………。言い出したら困ると思いつつ、結構前向きなオラトリオだった。しょせん、データを構築するだけのこと。あっという間にできるだろうと思ったこともある。
 だがしかし。甘いのだった。
「そんなの駄目だよ。ちゃんと編まなくちゃ!」
 オラクルの言葉に耳を疑う。編む? 編むって毛糸でちくちく、いや毛糸だからちくちくじゃなくてカチカチ………じゃない、編む!? 100人分を? 誰が?????
 じとーと恨めしげな目で見つめたのに気づいたのか、オラクルが不安そうに見る。
「駄目? 手伝ってくれない?」
 こんな顔をされて嫌だなんて言えるオラトリオではなかった。結局惚れた弱みというものなのか。
「でも、編むってどうやって? 俺は編物なんて知らないぜ」
 たぶんオラクルも。いくら山のようにデータがある<ORACLE>といえど、編物データなどはさすがにない。
「大丈夫だよ、エモーションが教えてくれるって。あ、来たみたい」
 オラクルの言葉と同時に山のような毛糸を抱えたエモーションがやってきた。
「いらっしゃい」
 にっこり微笑んで挨拶するオラクルとは裏腹に、オラトリオはエモーションが抱えてきた毛糸の量に青くなっていた。
 100個、100個、100個………。それだけ編むのにはこれくらいいるのかもしれないが、とにかく多い。今更ながら、靴下100個編みの重圧がどしーんとのしかかってくる。
「………どれだけあるんすか?」
 思わず聞いてしまうと、あらとエモーションは首をかしげた。
「だって、100個分のプレゼントが入るような巨大な靴下でしょう? これくらいいると思いましたのよ」
「…………いや、巨大な1個じゃなくて、100個なんすけど」
 あらあらあらとエモーションは手を口に当てた。
「大変ですわねえ、オラクルさま」
 巨大1個も大変さには変わらないと思うが、1個と100個、なんとなく100個のほうが大変そうに思える。
「それをオラクルさまお一人で? いくらなんでも無理じゃありませんの? 私もお手伝いいたしますわ」
 やたっ! これで俺は編物の恐怖から逃れられる。そう思ったのもつかの間、
「オラトリオも手伝ってくれるんだ」
 お茶の用意をしながら、オラクルが言う。
「エモーションも手伝ってくれるなら、一人33個ですむよね」
 100個の3分の1。2、3枚、せいぜい10枚くらいのつもりだったエモーションも引きつった。
「あ、あの、私………」
「ありがとう、エモーション」
 大事なかわいい弟ににっこり微笑われたらエモーションも逆らえない。がっくりと肩を落とす。
「ええ、私、33個編み上げて見せますわ………」
 ほとんど自棄だった。暗い声でふふふと笑う。
「でもオラクルさま、一人33枚ということは1枚足りませんわよ?」
「仕方ないよ。私が一個余分に編むことにするから」
 かまわないというオラクルに首を振ってみせる。
「こういう事は全員参加に意義があるのですわ」
「?」
 きょとんと首をかしげる弟にエモーションはにっこり笑って見せた。
「お兄様にも手伝ってもらうんですの」

 とばっちりを恐れたオラトリオが帰った(逃げた)後、急ぎ呼び出されたコードは、何事と思ってきた<ORACLE>でとんでもないことを言われ耳を疑った。
「だから、靴下、編んで欲しいんだけど」
 無理、かなあ。困ったように微笑まれると、できないなんてことは絶対に言えない。でも、編物?
「う………」
 うなるコードにエモーションが追い討ちにささやいてみせる。
「オラクルさま、すごく楽しみにしてらしたんですのよ? それを裏切るなんて、まさかお兄様おっしゃいませんわよね?」
 コードは固まった。
 男子たるもの、編物など誰ができるかとわめきたい。だが、意味ありげに笑う妹相手ならともかく、オラクルだ。閉じ込められて外界を知ることすらできない弟の望みはなんだってかなえてやりたいコードだった。
 だいたい、そのなにより大事な弟も一応男で、今もコードの目の前でせっせと編み棒を動かし、靴下編みに励んでいる。男が編物なんてできるかなどと言えば、オラクルを愚弄することにもなってしまう。それはまずい。
 ………それもこれも守護者とは名ばかりのけだものが可愛い弟を襲って子供なんか作ったため。恨めしくこの場にいないオラトリオへの呪いをつぶやいてしまっても仕方のないことだろう。いたらどうなっていたことか。
「ああ、わかりましたわ♪」
 コードが悩んでいると、急にエモーションが明るい声を出した。
「お兄様、一つなんて物足りないんですわね。ええ、もちろんよろしいですわ。100個を4に………」
「編むっ! 靴下を編んでやる。だが一つだけだ。それ以上は絶対に編まんぞ!!」
 それ以上言わせないようにと、コードは思いっきり叫んだ。はっと気がつくと自分は何を口にしてしまったのか。取り消そうにも、オラクルが嬉しそうに目を輝かせる。
「本当? コードも手伝ってくれるの? 嬉しいな。みんなでおそろいだね。」
 おそろいって、それはなんだか違う。でも、喜んでいるのをみていれば、口が滑っただけなんて言える筈もなく。
 なし崩しにコードの編物部隊への参加は決定されてしまっていた。



「エレクトラっ! 頼む。俺様の分も………」
 とりあえず、あの場は人に見られては落ち着いて編めれないという理由で逃げ出したコードだった。こっそり妹に頼もうにも、無視されるか、
「あら? お兄様、ずるしたなんてオラクルさまに知れましたら、どれだけ哀しまれますことかしら……」
 なんていぢわるを言われる。
「エララ、一生の頼みだ。靴下を編んでくれないか?」
 妹に見つからないように現実空間で、もう一人の妹に頼んでも見たが、
「はい、お兄様♪」
 にっこり笑って渡されたのは当たり前だが現実空間での靴下、しかも鳥さん脚用で。コードの判断力も編物ショックで低下している。
 こうなったら仕方ない。コードは覚悟を決めて細雪の代わりに編み棒を手にとった。1個ならすぐ編める。そう思ったが、初めての試み、なかなかうまく編めれない。
「い、いかん。ちょっと不恰好になってしまった」
 何個めかの靴下をコードは投げ捨てた。コードだったら何でもできるよね、すごいよね♪と信頼しきった目で見つめられた手前、あまり変なものを渡すわけにはいかないのだ。
 必死の面持ちで毛糸と格闘するコードの姿を、
「次に何かあったときのために♪」
 つぶやきつつ、エモーションが盗み撮りしているのは内緒だったり。





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