「この、馬鹿トリオ!」 怒号の後は、予想通り、圧縮データの雨だった。分厚い、百科事典級の上製本が十数冊。CGだから怪我をするという訳ではないが、かなりのダメージを受ける。 「…俺の忍耐にも限度ってものがあるぞ」 「それは私の台詞だ!何なんだ、さっきからミスばかりして。手伝うどころか仕事を増やしてるじゃないか!」 その日、3度目のミスを指摘した時、オラクルの怒りは閾値を越えたのだった。 「俺は監査の仕事で疲れてるんだぞ。それを休ませもしねえでこき使うなんて、お前には思い遣りってものも無えのか!」 「何だ、それは」 オラクルの言葉に、オラトリオは返す言葉も無かった。言い争いをして勝てる相手では無い。と言うより、言い合うだけ無駄だ。 「お前が監査の仕事に手間取って此処に来るのが遅れたから、仕事がたまったんだ。手伝うのは当然だろう。大体、これはお前の仕事でもあるんだ」 「…へいへい、判りやしたよ」 やけになって、オラトリオは言った。オラクルは、仕事となると、かけら程の妥協も赦さない。 ――ったく、本当にプログラムだぜ、こいつ。 プログラムがプログラムらしい事に腹を立てても無意味だ。言い争えば自分が疲れるだけ__それは、オラトリオには判っていた。 「まず、その本を片づけてくれ。大切に扱えよ」 大切な本を乱暴に扱ったのは誰だ__喉まで出掛かった言葉を呑み込んで、オラトリオは両腕いっぱいに本を抱え、席を立った。 <A−O>ORATORIO。彼は、研究所専用の大規模データベース<ORACLE>を護る為に造られた。その規模の膨大さとユーザー数の多さを思えば、データベースというより、ひとつの世界をなしていると言った方が、相応しいだろう。 そしてその世界を管理しているのが<AI>Oracle。<ORACLE>の管理・運用プログラム群を管理し、運用するメタシステムだ。オラトリオはウイルスと戦い、ハッカーから<ORACLE>を護るのみならず、<ORACLE>を利用する各地の研究施設を監査する監査官の役割も果たしている。 ――其処までなら、許せるさ… 書架に乱暴に本を押し込み、思い直してきちんと並べながら、オラトリオは思った。稼動してから、今までに何度となく、同じ事を思い、その度に、同じ経路をたどり、同じ結論に達している。 ――あいつにはウイルスと戦う能力は無い。<ORACLE>の外に出る機能も無い。だから俺が造られた。あいつに足らない性能を補う為に。俺は、あいつのおまけって訳だ。 オラトリオは、とっとと現実空間に戻ろうと思った。 ――そもそも、一体、何をしに此処に来たんだ?監査で疲れてる。最近、ボディの調子も良くない。それなのに、何でここに来た?ここに来れば、あの融通のきかないプログラムにこき使われるだけだって、判ってる筈なのに… 「休んでも、良いぞ」 オラトリオがカウンターに戻り、現実空間に帰ると言おうとした時、オラクルが言った。 「その方が、仕事の効率があがるのならな。但し、30分だけだ。今日中に、これを終わらせなければならない」 こんな所にいて、休まると思うか__心中で毒づきながら、オラトリオの足はソファに向かっていた。何をするのも億劫なほど、疲れていたのだ。戻ったら、音井教授の所に行った方が良さそうだ…そう思いながら、身体をソファに投げ出す。どうも、熱があるようだ。 スリープモードへの移行を、何かが邪魔している。視線の端で、オラクルの姿を捉える。自分と同じ顔をしているという事実が、腹立たしい。 ――あいつが俺と同じ顔なんじゃ無い。俺があいつと同じなんだ。俺は…あいつのバックアップだから。あいつが停止したら、俺はあいつの身代わりになる。ウイルスと戦う能力も無く、<ORACLE>の外に出る機能も無く、思考と感情を調整されて… それは、彼に課せられた運命。もっと言えば、彼という道具の使い途。その為に、彼は造られた。彼が望むと望まぬとに拘わらず。 「…トリオ、起きろ、この馬鹿!」 やっと、眠りにおちた時、オラトリオは揺さぶり起こされた。急な調整が間に合わず、思考回路がまともに動作しない。 「__何しやがんだよ、この冷酷無情プログラム!」 寝入りばなを叩き起こされた不機嫌さから、オラトリオは怒鳴った。まじかに、オラクルの白い貌。凍り付き、蒼ざめている。 言い過ぎた__そう、思ったのは、一瞬の事だった。右手に杖を、左手に帽子を取り、ソファから跳ね起きた。 「ったく、どいつもこいつも、少し位、ひとを休ませろってんだ!」 ハッカーがガーディアンの都合など考える筈も無い。嫌、彼が今、疲れて苛立っていることなど知れば、襲撃の好機と思うだろう。自分でも、たわ言だと思いながら、オラトリオは<ORACLE>の外へ、駆け出た。 年の頃、14、5歳の少女。長い亜麻色の髪をかすかに揺らし、オラトリオの方を、不安そうに見つめている。 「これはこれは可愛いお嬢さん。デートの申し込みですかい?」 「…あなたは、誰…?」 脅えたように、少女が聞く。オラトリオは端正な口元に、微笑を浮かべた。 「残念ですけどね、お嬢さん。俺に、名前は無い。俺には、姿も無い__序でに言えば、お嬢さんとデートしてる時間も無いんでね」 少女の眼が大きく見開かれた。閃光が、少女の華奢な身体を貫く。暗緑色の液体が飛び散った。オラトリオは身をかわし、それを避けた。暗緑色のそれは、無数に分かれ、オラトリオを取り囲む。 「てめえらごとき、下級ウイルス。このオラトリオ様と戦おうなんざ、100年、早いぜ」 オラトリオは、攻撃してくるウイルスを次々と倒した。 ――見えざる者__上出来じゃねえか。<ORACLE>をハッカーから護る戦いに、俺は生命を懸けている。いつか俺が死んでも、別の守護者が代わりになるだけだ… ウイルスの戦闘レベルは、大した事も無かった。それが、却ってオラトリオの集中力を削ぐ結果となった。 ――お前の仕事だろう オラクルの、冷静な口調が、オラトリオの記憶回路を過ぎった。 ――馬鹿だよな、俺も。“思い遣り”がなにかも知らないプログラムが、冷酷と言われて傷つく訳なんぞ、無えだろ。そもそも、あいつが傷つくなんて事があるのか?思考と感情を調整されているプログラムのあいつが… すぐ肩先を、ウイルスの触手が掠めた。叩き斬って避けはしたものの、相手にも致命傷を与え損なった。身体が熱く、息苦しい。現実空間に残してきたボディの排熱量が上がってしまっている。この状態が長く続くのは危険だ。 「…一気に、カタをつけてやるぜ」 オラトリオは、全てのウイルスに一斉攻撃を掛けた。結果、彼のシステムリソースは消費され、ほんの一瞬だが、防御に空白が生じた。 ――オラトリオ…! リンクを通し、頭の中で直接、響くようにオラクルの声がした。振り向くと、今の一斉攻撃を逃れたウイルスが、<ORACLE>の白大理石の壁に取り付き、穿った隙間から中に侵入しようとしている。 「させるか…!」 次の瞬間、ウイルスは灼き尽くされていた。 <ORACLE>の壁に生じた亀裂に、オラトリオは舌打ちした。ウイルスを灼いた時、そのウイルスが作っていた亀裂から、<ORACLE>の内部にまでダメージを与えてしまったのだ。それ程、大きな損傷では無かろうが、罵声を浴びせられるだけでは済まないだろう。とにかく、戻って様子を見なければならない。 案の定、何冊かの本が、床に散乱していた。一目見て、破損していると判る。オラトリオはオラクルに歩み寄り、立ち止まった。怒鳴りつけられるのを、待つかの様に。 が、オラクルはオラトリオの方を見もしなかった。黙ったまま、データの修復をしている。 「…悪かったな。ちょいと、力加減を誤った」 ミスはミスだと思い、オラトリオは謝った。が、オラクルはやはり、オラトリオの方を見もしない。 ――ムカツク… 「…手伝うぜ」 「私のデータに触るな!」 床に落ちた本を拾い上げようとしたオラトリオに、鋭く、オラクルは言った。顔色が蒼ざめ、表情が険しい。どうやら、本気で怒っているようだ。疲労と、自責の念が、オラトリオの神経を逆撫でした。黙って、データの復旧を続けるオラクルの姿も気に入らない。 「どうせ、データのバックアップは取ってあるんだろうが。何だって、そんなにかりかりしやがるんだ」 オラクルは答えない。データの修復の事しか、頭にない様だ。 「データに触るなってんなら、俺は帰るぜ」 半ば自棄的に、オラトリオは言った。オラクルはそれでも黙っていた。オラトリオは<ORACLE>を出た。 現実空間で、オラトリオは調整を受け、体調は回復した。が、気分は最悪だった。よりによって、<ORACLE>の守護者たる彼が、<ORACLE>のデータを破損してしまったのだ。<ATRANDUM>に戻ったら、譴責されるだろう。或いは…任務不適格と見做され、<ORACLE>の守護者を解任されるかも知れない。 ――望むところだぜ だが、用済みになったHFRは、どうなる?少なくとも、すぐに停止させたりはしないだろう。それでは開発費用が回収できない。 ――余り無理はするなよ。 音井教授の言葉が思い出された。優しい“父親”。その優しさが、恨めしい。音井信之介がどう思い、何を願おうと、会議の決定の方が優先される。基本的には。 ――割に合わねえぜ… こんな、酷な役割があるだろうか?被守護者を護れなければ、その代わりを勤めなければならない。それが、いつの日にか自分の姿になるのかもしれないと思いながら被守護者を見る。戦う能力も無く、外に出る機能も無く、ただデータの事しか考えず、無表情で仕事に打ち込む。思考と感情を調整されたプログラム…。 オラトリオが一部のデータを破壊してしまった事に関し、何の報告も上がっていなかった。それを知って、オラトリオは不愉快になった。確かに、譴責を怖れてはいた。だが、そうされずに済んだ事に、安堵は出来なかった。 ――どういう積もりだ、あの野郎… 無言で、データの修復をしていたオラクルの姿が浮かんだ。オラトリオの方を見ようともせず、オラトリオの存在を無視したかの様に… 10日の間、オラトリオは<ORACLE>に行かなかった。オラクルからも、何の連絡も無い。が、<ORACLE>の監査ログを調べたとき、この10日の間に<ORACLE>が2度もハックされていた事を、オラトリオは知った。 CGが安定する間ももどかしく、オラトリオはカウンターに歩み寄った。そして、両の拳を叩き付ける。 「てめえ、一体どういう積もりだ!」 さすがに驚いたらしく、オラクルはすぐには答えなかった。 「何で俺を呼ばなかった?2度もハックされたのに、だ」 「…あの程度ならば、私にも対処できる…」 「上出来じゃねえか。自分が無力で無い事を示したかったって訳か__無力なくせに」 言ってから、オラトリオは後悔した。決定に逆らえない事を無力と呼ぶなら、彼らは皆、無力だ。 「…俺を信用してねえんだな。俺が又、データを壊すとでも思ってんのか」 答える代わりに、オラクルは眼を伏せた。オラトリオは苛立った。 「俺はてめえなんぞを護ってんじゃ、無え。<ORACLE>を護ってんだ。それが俺の仕事だし、ハックされたら俺に知らせるのが、てめえの義務だろうが」 オラクルはオラトリオを見、そして再び眼を伏せた。白い頬が蒼ざめている。 「どうしても俺が気にいらねえなら、替えさせりゃ、良いだろう。その権限はてめえにある」 「…そんな事をしたら、お前は…」 「俺の事なんぞ、てめえには関係無えだろう。てめえが必要なのは守護者であって俺じゃ無えんだからな」 再び、オラクルはオラトリオを見た。 「…お前は…私の為に造られた筈だ__」 「それがむかつくって言ってんだ!」 苛立ちに任せ、オラトリオはカウンターの上の書類を床に叩き落とした。オラクルが、何より大切にしているデータを。 次の瞬間、オラトリオは右頬に、痛みと熱を感じた。 「何しやがる!」 怒鳴るとともに、オラトリオは平手打ちを食わせたオラクルの手首を掴んだ。その、余りの細さに、オラトリオは一瞬、虚をつかれた気がした。オラクルは、黙ったまま、まっすぐにオラトリオを見つめている。瞳の雑色が激しく移ろい、頬は蒼ざめている。堅く結んだ口元が、幽かにわななく。今までに、何度か見た表情だ。ウイルスに侵入された時に見せる表情。 それは、怒りなのだとオラトリオは思っていた。自分の空間を蹂躪される事への、不法な侵入者に対する怒り。だが今、オラクルの腕は、震えている。幽かに、だが、確かに。 ――怯えている…? オラトリオは、オラクルを見つめ返した。今までも、ずっと怯えていたのだろうか…?そしてそれを、ずっと隠していた。信頼していないから。怯えている事など、知られる訳にはいかない。 オラクルは、視線を逸らした。 ――私の守護者…? ――そう、あなたの守護者よ。もう、安心して良いわ、オラクル… オラクルは床に落ちた書類を見つめた。拾おうとはせず、ただ、見つめていた。 「…それが、理由だったんだな…」 静かに、オラクルは言った。 「お前が…私を嫌っている理由。初めから、お前は私を嫌っていた。何故、嫌われるのか、私には判らなかった…」 初めて会ったときのことを、オラトリオは思い出した。オラクルは、微笑んでいた。が、その笑顔に、親しみは感じられなかった。作ったような、仮面の微笑み__ 「…初めから嫌ってたってんなら、おめえも同じだろ」 「__私が?」 「ああ、おめえが、だ。おめえがいつ、停止しても人間は困らない。俺っていうスペアがあるんだからな__そういう俺を、お前は嫌ってるんだ」 オラクルは、首を横に振った。 「私にはそんな積もりは無い。お前がいるのは、私が停止した後の為よりも、私が停止しないようにする為なのだから…」 「__で、おめえはいつも安全な場所にいて、俺が危険に晒されるって訳だ」 言ってしまってから、オラトリオは後悔した。オラクルのせいでは無い。オラクルを責めるのは酷だ。苛立つのは、オラクルのせいでは無い。いい加減に…認めたらどうなのだ? 「…だから…お前は私が嫌いなんだ…」 哀しげに、オラクルは言った。それ程、哀しそうなオラクルの顔を見るのは、オラトリオには初めてだった。 「それでも…私はお前が必要だ…」 「守護者だからだろう。判ってるぜ、んな事は」 守護者であれば誰だって良い__再び、オラトリオは苛立ちを覚えた。不条理な苛立ちだった。そしてそれが不条理であるが為に、彼は一層、苛立った。
言って欲しかったのは、 「だったら何で、呼ばなかった!」 拳をカウンターに叩き付け、オラトリオは怒鳴った。
馬鹿馬鹿しい程の、 そう、オラクルは言った。 「あの時、お前がミスをしたのは、疲れていたから…。それがどういう事なのか、私は判っていなかった。私には判らない事が、多すぎる。お前に…どう接すれば良いのかも、判らない。利用者に対する接し方ならプログラムされている。だけど…お前はただ一人の相棒だ。そのお前に、どう接すれば良いのか…」 作ったような、仮面の微笑み。何の親しみも感じさせない、穏やかな笑顔__そういう風に、プログラムされていたのだ。不特定多数の利用者に対するインターフェースとして。 思考と感情を調整されたプログラム__感情が、無い訳ではない。ただ、白紙に近いのだ。憎しみを書き込めば、憎しみしか返ってこない。与えられる事だけを望み、与える事をしなければ、何も、得る事は出来ない。 オラトリオはオラクルを見た。今まで、同じ顔である事が気にくわず、まともに見たことが殆ど、無い。彼のそれよりも、ずっと儚げで、繊細な白い貌。瞳の雑色は哀しみに満ち、頬は蒼ざめている。彼の言葉と態度とが、深く、オラクルを傷つけたのだ。 必要なのはただ、自分の怯惰を認める勇気。最悪の状況を怖れ、目の前の現実から逃避しようと無駄に足掻いていた事。それを、そのまま認められなければ、何も、解決しない。
認めたらどうなのだ? 暫くそうしている内に、オラクルの震えは収まった。 「私はお前が必要なのに…お前にどう、接して良いか、判らない。思い遣りが無いというのは、こういう事を意味するのだろうな…」 眼を伏せたまま、オラクルは言った。膨大なデータを擁し、サイバースペースの上位に君臨する空間を統べる賢者は、一面ではほんの子供のようでもあるのだ。オラクルが、理解できなかったのも無理は無い。理解する事を拒んでいたのはオラトリオの方だ。 全ては怖れの為。被守護者を護れなかった時に、罰として、自由を奪われなければならない__それを怖れる気持ちが、自らを追い込んでいた。オラクルを、罰を受けた自分の姿としてしか見られなかった。相手の存在を認めもせず、どうして自分が認められる…? 怖れるのは、怯惰では無い。卑怯なのは、それを認められない事、惰弱なのは、それに対処しようともしない事。 「…だったら…俺が教えてやるぜ。接し方が判らねえってなら…な」 そう、オラトリオは言った。 「判らねえ筈だよ…な。お前は、俺のほかに誰かに接するって事がねえんだから」 オラトリオの口調は優しかった。もう、怒ってはいないようだ。が、その理由はオラクルには判らない。オラトリオが苛立っていた理由が、判らないように。 ――彼を信じ、彼に頼って良いのよ。彼を、必要としてあげなさい。彼も、あなたを必要とするでしょう。 ――何故…彼が私を必要とするのです? ――それは…そうね。その内、判るでしょう。言葉で説明するような事ではないわ…。 「ひとつ、聞いても良いか?」 そう、オラクルは言った。 「お前は…私を必要としているのか…?」 その言葉に、オラトリオは虚をつかれた気がした。必要とされる事を望んでいた。必要としている事を認めもせずに。 「…ったりめえだろ。お前がいなけりゃ、俺は存在している意味が無い」 「…私の事が、嫌いでも?」 嫌っていたのは、自分自身の怯惰。憎んでいたのは、それを認められない自分__ 「お前の事、嫌いなんかじゃ無いぜ」 「だって…お前は、今__」 「ったく、世間知らずだな、お前って奴は。ひとの言葉を、そのまんま単純に受け取んじゃ無えぜ」 オラクルは、オラトリオを見た。オラトリオは軽く、笑った。始めて見る、オラトリオの明るい笑顔。こんな風に、微笑めば良かったのだろうか?こんな風に… 困惑したように、オラクルは相手を見つめた。オラトリオは、笑って腕を伸ばし、オラクルの雑色の髪をくしゃくしゃにした。 「その内、お前にも判る…さ。多分、な」 オラクルは当惑していた。ただ、悪い気はしなかった。いつか、理解できる時が来るのだろう。それがいつになるのかは判らないが。 「…良かった。お前が、私を嫌いで無くて…」 優しく微笑んで、オラクルは言った。その表情は、まだ少し、ぎこちなかったけれども。
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