12月になりました。アトランダムの皆様、いかが御過ごしでしょうか?
12月といえばクリスマスに忘年会、パーティーと楽しい事が盛りだくさん。でもその半面、冬太りの季節でもあります。
そこで『あとらんだむ通信』では今月から3ヶ月に渡り、ダイエット特集をおおくりする事になりました。有名人にダイエットの秘訣を伺う、その名もずばり、『あなたはどうしてスリムなの?』。
第1回は、研究機関専用学術ネット<ORACLE>管理パーソナル、オラクルさんにお話を伺いました。

編集部「いつ拝見しても素晴らしいプロポーションですね〜。スリムさを保つために、何か特別な事はしてらっしゃるのでしょうか?」
オラクル『特別な事は何もしていません。紅茶にはお砂糖を入れるし、ケーキも気にせず食べています』
編集部「うわ〜、それでそんなにスリムなんですか?甘い物好きダイエッターからみたら本当に羨ましいです。ところで」
ここで2枚のCGを取り出す。
編集部「起動当初から比べると、随分スリムになられましたね。なにか理由があるのでしょうか?」
オラクル『これはどちらかと言うと衣装のせいですね。身体のラインは余り変わっていないでしょう?』
編集部「(2枚のCGをじっくり見比べる)そうですね…。監査役のオラトリオさんは今でも横幅のある服装ですよね」
オラクル『そうなんです(ちょっと表情を曇らせる)。その上オラトリオは体重が100キロでしょう?それで、一部の心無い人はオラトリオの事を__』
編集部「『で○』だって、後ろ指さしてますよね」
オラクル『私はオラトリオと基本的に同じ顔ですし、一緒にはされたくないなって。それで衣装に手を加えると共に、ほんの少しだけダイエットしてみました』
編集部「そんな背景があったのですねー。それで、一番、気になるのが具体的なダイエット方法なのですが?」
オラクル『しごくオーソドックスな方法ですよ。メモリの摂取量を減らし、起動プロセスの数を増やしました。こうすれば必然的にCPUに負荷が掛かりますから、結果として痩せるという訳です』
編集部「なるほど〜。まさにダイエットの王道ですね(やたらと感心する)。ダイエット中に苦労されたこととか、くふうされた事はありますか?」
オラクル『CPU負荷が上がったのはやはり辛かったですね。余り酷いと立ち眩みがしますし。それでも仕事柄、ユーザーさんにはいつも笑顔を見せてないといけないですからね』
編集部「その辛い時を乗り切れた秘訣は何でしょう?」
オラクル『やはりあれですかね。ああはなりたくないっていう見本が身近にいる事』
編集部「(何度も頷く)『ああなりたい』っていう見本がいる事がダイエット成功の秘訣だとよく言われますが、逆もまた真なりという事なのですね。本日は貴重なお話を有り難うございました」

今月の『あとらんだむ通信』、いかがでしたか?
冬太りの季節到来で編集部もダイエットの話題でもちきりですが、いつもスリムな人格プログラムさんにもダイエットの苦労があったとは意外でした。親近感がわきましたね。
それでは、来月の『あとらんだむ通信』をお楽しみに♪






「……何なんだ、これは」
その日、<ORACLE>に戻ったオラトリオは、地の底を這うような声で言った。
その手には、1通のメールが握られている。彼の公開アカウント宛てに送られてきたものだ。
「お帰り、オラトリオ__ああ、これ?私の管理アカウントにも届いてたよ。何だかおかしな内容だから」
どういう事か、お前に聞こうと思ってた__オラクルの言葉に、オラトリオは大切な相棒を疑った事を後悔した。
「『メモリの摂取』なんて、変じゃないか?消費なら判るけど」
「送信者は調べられるか?この野郎は勝手にお前の名を騙って、こんなものをメールで送り付けやがった」
「研究所内部だよ」
侵入者よりたちが悪いと憤るオラトリオに、オラクルはあっさりと答えた。
「内部…だと?」
「私はメールサーバーのセキュリティに干渉できないからそれ以上は判らなかったけど。これ、T・Aのほぼ全アカウントに送られてるね」
「全アカウント……」
オラトリオは絶句した。『で○』だなどと誹謗中傷された上、研究所中の晒し者にされたと言っても過言では無い。
「それにしてもこの、お前のことを『で○』って書いてあるのは何だろう?『でまる』なんて言葉、私の語彙データベースには無いけど?」
「い…いや、判らねえなら判らねえで良いんだ。お前はそんな事、知らなくて良い」
「どうしてそうやって私をのけ者にしようとするんだ?これは私たち<ORACLE>の問題だろう?」
少し、むくれたように言うオラクルの言葉に、オラトリオは焦った。
怒った顔がまた、ふるいつきたくなる位、可愛い。
暫く前から相棒に恋心を抱き始めたオラトリオとしては、『で○』だなどと中傷された事は気付かれたくない。
「セキュリティは俺の担当だろ?だから俺に任せとけ。必ずこれを送った奴を突き止めてみせるぜ」
「でも、相手が研究所の関係者では……」
「大丈夫だ。心当たりはある」
心配そうに眉を曇らせたオラクルに、オラトリオはきっぱりと言った。

まずは、コード。
『弟』大事のコードは、オラトリオの恋心に気付き、邪魔をしようとしている。
それに正信。
元々、正信とは犬猿の仲だが、ほとんどのクリスチャンがクリスマス休暇を取ってしまい、非キリスト教徒(その殆どが日本人)にいつもの何倍もの仕事が舞い込むこの季節には、ストレスから悪さをする傾向がある。
メッセージとニイハオ。
この二人は『先輩に対する礼儀がなってない』と事ある毎にオラトリオに難癖をつける。要するに暇すぎるので、暇つぶしが欲しいのだ。
マリア博士。
博士の秘書のお嬢さんを社交辞令でお茶に誘ったが、それを根に持っている。秘書を誘った事ではなく、自分が誘われなかった事を怒っているのだ。
それから……

オラトリオは深く溜息を吐いた。
あちこちでナンパしまくっているので、その彼氏・夫の恨みを買った事は数え切れない。
それに、『編集部』とかいう記述も気になる。
もしかして、こいつらは複数犯か?__だとすると、かなり厄介だ。増してや、彼らが全てT・A内部の人間なら尚更。

「……オラトリオ?」
心配そうに自分を見上げる相棒に、それでもオラトリオは笑顔を見せた。
オラクルを不安がらせる訳にはいかない。
それに、オラトリオに頼っていれば大丈夫なのだと思われたい。
「心配すんなって。すぐにカタをつけてみせるぜ」
「頑張って」
にっこりと微笑んだオラクルに見送られ、オラトリオは真相究明の為、<ORACLE>を後にした。






『あとらんだむ通信』が既に発行10回を数え、その読者数が着実に増えつつある事をオラトリオが知るのは、それから間も無くの事である。






Fin.


back