Project X |
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「お前の見学ツアー、いい加減、止めねえか」 表情にも口調にも、思いっきり不機嫌さを露にしたオラトリオの言葉に、オラクルは軽く笑った。 『何?妬いてるの?』 「__ば…何、馬鹿な事、言ってんだよ」 いきなり痛い所を衝かれ、オラトリオは焦った。その様子に、オラクルはもう一度、笑う。 『この企画が始まってから、<ORACLE>(わたし)の利用申し込みも増えたし、ツアーの申込そのものも、増える一方だし』 ファンメールも来てるし__楽しそうに、オラクルは付け加えた。 オラクルのCGの出来の素晴らしさに感動したと、T・Aの研究員宛てではなくオラクルに宛てて、少なくない数のメールが来ている。 <ORACLE>見学ツアーが始まってから、法人の利用者数が増えただけでは無い。個人で利用したいという問い合わせが殺到しているのだ。 <ORACLE>は個人での利用申し込みは受け付けていない__そう返答すると、殆どの者はそれで諦める。が、中にはオラクルの姿を映した動画か、せめて静止画を譲って欲しいと頼み込んでくる者もあるのだ。 「ファンメールってなあ…。お前、自分の置かれてる状況が判ってんのか?」 『心配しなくても大丈夫だよ。私が愛しているのはお前だけだから』 まっすぐに見つめられ、オラトリオはありもしない心臓がどきりと脈打つのを感じた。頬の辺りの人工皮膚が熱い。 「だ…れもそんな話、してねえだろ!お前のCGや本体を見世物なんぞにしたら侵入者が増える。俺はそれを心配して言ってるんだぞ」 侵入者という言葉に、オラクルの白い頬が幽かに蒼ざめた。その変化の微妙さ、滑らかさは本当に生きている様で、見学者たちが感心するのも道理だ。 『だけど…システムを使ってくれる人がいなければ__』 「こんな馬鹿げたツアーは、利用者よりクラッカー(不正侵入者)を誘ってるようなもんだぜ?個人で利用したいなんて申し込みの中にゃ、随分、胡散臭いものもあるからな」 オラトリオの言葉に、オラクルの細い指先が幽かに震えた。 オラクルは侵入者にトラウマがある。そのトラウマは、侵入者という言葉を聞くだけでも不安になる程、強い。 『だって…ツアー参加者の身元調査はちゃんとしてある筈じゃ無いのか?』 「まともな企業に勤めてるエンジニアが実はクラッカーだったなんて、幾らでもある話だぜ」 そんな事も知らねえのか?__苛立たしげに、オラトリオは言った。 オラクルの世間知らず振りは今に始まった事では無い。いつもなら、それはむしろ微笑ましいとさえ思える。 だが、その世間知らず振りが危険を招いているとしたら……? <ORACLE>の守護者として、オラトリオは神経質にならざるを得なかった。 「大体、お前は無防備すぎるんだ。俺が幾らお前を護ってても、俺の事は誰も守れないんだぜ?俺に何かあったら、お前、どうするんだ?」 オラトリオの言葉に、オラクルは口を噤み、俯いた。その頬は蒼ざめ、華奢な身体は小刻みに震えている。 その姿に、オラトリオは言った事を後悔した。 つい、口がすべったのだ。 戦う意志も術も持たないオラクルは、侵入者に襲われたら抵抗する事も出来ない。だからこそ、侵入者を酷く恐れるのだ。そのオラクルに対し、不安を煽り、脅すような事を言ってしまった。 そんな事を言えば、オラクルがどうなるか、判っていた筈なのに…… 『何、オラトリオ。お前、守って欲しいの?』 すっと顔を上げ、オラクルは言った。 眼が座っている。 やべ…… オラトリオは焦った。が、後悔しても遅い。 オラクルは侵入者に対する不安が閾値に達すると、その恐怖の余り__キレるのだ。 「い…嫌、俺が言いたかったのはつまり__」 『戦うのが厭ならいいよ。自由になってかまわない』 腕を組み、冷たくオラクルは言った。いつの間にかコネクティングマシンの上に移動し、オラトリオを見下ろしている。 「…んな事、言ってねえだろ。お前は俺が必ず護る。俺はその為の存在だし、何より俺自身__」 『だったらうじうじ言ってないで、ちゃんと私を護ったらどうだ。”無敵の守護者”だろう、お前は』 「……」 オラトリオは言葉に詰まった。それを言われると何も言い返せない。と言うより、こういう状態のオラクルに逆らうと、当分の間、酷い目に遭う。それは既に学習済みだ__哀しい事に。 『大体、お前の保守費用はどこから出てると思ってるんだ?お前はA−NUMBERSじゃないから、そのでかい図体の維持費は<ORACLE>(わたし)の利用料金で賄ってるんだぞ』 好き好んででかい図体に造られた訳じゃあ…… 『お前みたいな奴の事を給料泥棒って言うんだ__この前、覚えた』 維持費はとも角、給料は貰ってねえんすけど……? 『それにだな、このツアーの前に出された企画なんてもっと酷かった。だから何とか研究員たちを説得して、このツアーに変えさせたんだ』 「もっと酷い企画って…?」 何となく厭な予感を覚えながら、怖いもの見たさでオラトリオは聞いた。 『「オラトリオを見よう」ツアーだ』 「会おう」ではなく、「見よう」__そのネーミング自体、既にアブナイ。 『良く出来た人間形態ロボットに興味を持つ人間は沢山いるからな。私のCGと違って、握手したり、触ったりも出来るし』 ……触る……? 『どんな仕組みになってるのか、服を全部脱いで見せれば__』 「ちょっ__待てよ、オラクル。そ…それマジか…?」 オラトリオの言葉に、オラクルは大きく頷いた。 『「どこまで人間に近く出来ているか確認したい」という要望が見物人から出たら、オプション料金で応じる企画だったんだ』 オラクルの言葉に、オラトリオはひきつった。「見学者」ではなく「見物人」になっているのにも気付かない。 『それどころか、さらに追加料金をはずめば一晩、レンタルなんていう話もあった』 ひとばん、れんたる……? 余りのショックに固まっているオラトリオの傍らに、オラクルがコネクティングマシンからふわりと降り立つ。 『そんな事、とても認められないって私は反対したんだ。それでもシステムの維持の為には利用者拡大を図らなければならない。だから、私のCGと本体の見学ツアーの企画に変えたんだぞ?』 「__俺……お前に守られてたんだ…な」 がっくりとうなだれ、やっとの思いでオラトリオは言った。そんなオラトリオに、オラクルは穏やかに微笑みかける。 『お前は私の大切な守護者だし、何より可愛い恋人だから』 オラクルの言葉に、オラトリオは完熟トマトのように真っ赤になった。ショックの余り、嬉しいやら恥ずかしいやら何やら良く判らない。 『愛しているよ、私のオラトリオ…』 混乱するオラトリオに、オラクルは優しく言った。 「さっきの企画の話なんだけどさー」 暫くして落ち着くと、オラトリオは口を開いた。 「そんなとんでもねえ企画、誰が言い出しやがったんだ?」 『それは言えないよ。お前には黙ってるって約束したから』 さらりとかわそうとしたオラクルを、オラトリオは恨めしそうに見た。 『言えないけど…リュケイオンの開発が遅れているせいで溜まった鬱憤を晴らしたいって』 カルマの野郎か。正信とグルだな… オラトリオは、思わず拳に力が篭もるのを感じた。 『新参者の癖に先輩を敬わない態度を改めさせたいとも言ってたな』 ……メッセージのオカマ野郎か?中国娘も? 『色々な経験をさせた方が、お前が強くなれるだろうとも』 …コード?ラヴェンダー? 『それに、いっその事、お前を守護者と監査官の任から外してアミューズメント用ロボットとして地方興行させた方が、利益が__』 「良い!もう、それ以上、言わねえでくれ!」 慌てて、オラトリオは止めた。 『何で?』 きょとんと小首を傾げ、オラクルが聞く。 「い…嫌、済んだ事をぐだぐだ言っても始まらねえからな。それより、お前の見学ツアーのセキュリティ強化の対応策を考えるぜ」 ただでさえ”皆敵モード”で造られているのに、これ以上、人間不信・ロボット不信に拍車がかかったら、ストレスで電脳がヒートしそうだ__などという泣き言を言える筈は無い。 『頼んだよ、守護者(ガーディアン)』 何とか強がりの笑顔を見せたオラトリオに、オラクルは優しく微笑んだ。 ![]() コメント 7217を踏まれた詩龍さんに捧げる「逆酸素のギャグ」トリオいぢめ付きです。 4月号ネタバレになって…いるんでしょうか?(笑) 初期クルさんが後の姫クルさんと言葉づかいも態度も思いっきり違うのは、実は恐怖の余りキレていたからなんですね〜。納得してしまいました(←チガウ;) back この話を読んでの感想などありましたら、こちらへどうぞ |