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(9)



言い様の無い憤りを、ジェネシスは感じていた。
セフィロスは神羅の英雄だ。
神羅カンパニーに取っては、なくてはならない存在。
造反は、決して赦されないだろう。
元帥たちを呼びつけたり命令を拒否しようとした為に、セフィロスは甘やかされているのだと思っていた。
だがそれもまた、セフィロスを神羅に縛り付けておくための方策だ。
豪華な執務室も、無駄と言えるほどに広い私室も。
その一方で得られる情報を制限し、事実上の軟禁状態に置きながら、自由が奪われている事をセフィロスに自覚させまいとしている。
赦せない、と、ジェネシスは思った。
初めて任務に同行して生命を助けられた時、ジェネシスにはセフィロスが、銀色の光を纏って降臨する天使に思えた。
セフィロスは、自由に羽ばたく翼を持つべきなのだ。

「…次は、何が食べたい?」
セフィロスの座っている正面に回り、ジェネシスは訊いた。
「……何を、言っている?」
「次の夕食会の話だ。別に、昼間でも構わないが」
セフィロスは、幽かに眉を顰めた。
「…アンジールは俺を裏切った。もう、会いたくは無い」
「アンジールは、あんたを裏切ってなんかいない」
幾分か強い口調で、ジェネシスは言った。
床に片膝を付き、セフィロスの目を、正面から見る。
「あんたは自分で思っている以上に体調が悪かったんだ。あの時、アンジールが宝条博士を呼んでいなかったら、今頃、どうなっていたか、判らないんだぞ?」
「俺は、そんな事を問題にしていない」
冷たく、セフィロスは言った。
「俺はアンジールに、宝条には連絡しないと、約束してくれと言ったんだ。そして、アンジールは連絡しないと言った。それなのに、アンジールは言葉を違えた」
「あんたが死ぬかもしれないと、アンジールは本気で心配したんだぞ?」
「守る積りの無い約束など、しなければ良い」
分からず屋だな、あんたは__苛立ちを隠しきれず、ジェネシスは言った。
「そんなつまらない約束を守ってみすみすあんたを死なせる位なら、俺だって裏切り者の汚名を着る方を選ぶ」
「…お前にも、もう会いたくない」
視線を落とし、セフィロスは言った。
「そうやってまた、一人きりで閉じ篭る積りか?」

ジェネシスの言葉に、セフィロスは幽かに眉を曇らせた。
が、何も言わない。

「外を見る事は出来ても外に出る事は出来ない。そんな部屋にたった一人で閉じこもって、それで本当に満足なのか?」
セフィロスの視線が、宙を彷徨う。
「俺たちはあんたに無理強いしたい訳じゃない。あんたが独りでいる方が幸せなのだったら、それを邪魔する積りなんて毛頭、無い」
「……幸せ……?」

まるでそれが初めて聞く言葉であるかのように、セフィロスは言った。
ジェネシスは、セフィロスの肩を掴んだ。
殆ど反射的に、セフィロスはジェネシスの手を振り払う。
そのセフィロスの手首を、ジェネシスは掴んだ。

「あんたはもっと自由になるべきだ。好きな時に好きな場所に行って、好きな事をする。開きもしない窓から外を眺めているので無くて、外に出るべきだ」
「……そして…晒し者になれ、と…?」
形の整った美しい眉を曇らせ、セフィロスは言った。
週末に本社ビルから出た時の、人々の不躾な視線をジェネシスは思い出す。
「だったらせめて…俺たちと一緒にいよう」
そう、ジェネシスは言った。
掴んでいた手首を離し、両手で、セフィロスの手を包み込む。
「あんたは俺たちと一緒にいる時は結構、楽しそうだった。自惚れでなく、そう思う__違うか?」
セフィロスは僅かに躊躇った。
それから、口を開く。
「…お前たちと一緒にいるのは、気が楽だった。お前たちは俺に根掘り葉掘り訊いたりしないし、一々驚いた顔も見せない」
「本当に、また独りに戻りたいのか?」
困惑したように、セフィロスは眉を顰めた。
「アンジールはあんたを裏切ったんじゃない。ただ、判断を誤っただけだ。そのたった一度の過ちも、どうしても赦せないって言うのか?」
セフィロスは暫く口を噤んでいた。
それから、改めてジェネシスを見る。
「どうして…お前はそこまで拘る?」
「俺は__俺たちは__あんたの友人になりたいからだ。徒にあんたの偶像を崇拝するだけの信奉者ではなく、理解者に、心からの友人になりたい」
セフィロスは、再び口を噤んだ。
一旦、視線を落とし、それからまたジェネシスを見る。
「だったらお前たちは……何も言わずに俺の前から突然、姿を消したりしないと、そう、誓えるか?」
「勿論だ」
躊躇いも無く、ジェネシスは言った。
「そんな事、俺もアンジールも決してしない」
それで漸く安堵したかのように表情を和らげると、そうか、と、セフィロスは言った。



「次は、何を食わせてくれるんだ?」
いつもの戦闘服に着替え、執務室に下りてきたセフィロスは、控えの間で待っていたアンジールにそう、訊いた。
「……セフィロス」
「俺はチキン・ストロガノフが良いな」
セフィロスの隣で、笑ってジェネシスが言う。
「それは、美味いのか?」
セフィロスの問いに、勿論だとジェネシスは答えた。
「じゃあ、それが良い」
幽かに笑って言ったセフィロスにつられるように、アンジールも笑顔になった。
「よし。じゃあ、腕によりをかけよう__但し、酒は無しだ」
無粋な奴だと、ジェネシスが文句を言う。
その代わり、ハーブティーの美味いのを用意しようとアンジールが言うと、セフィロスはそれは何だと興味を示す。
「……ったく。ガキどもが」
デスクの上に座って、JJは肩を竦めた。
それから、穏やかに笑った。








セフィロスが何よりも嫌うのは、裏切られる事と、髪に触られる事。
この二つは極端に嫌がります。
信頼していたガストの突然の失踪は、仔セフィの心に癒し難いトラウマを残しました。
元々、子供というのは傷付きやすいし、ましてやセフィロスには他に信頼する相手も、愛情を注いでくれる人もいませんでしたから。
そのせいでセフィロスは、成長してからもずっと裏切られる事を嫌い、無意識に恐れてもいます。
髪に関するエピソードは今回、盛り込みきれなかったので次回にでも。

にしてもアンジーの手料理、食べたいです。てか、嫁に欲しい。
この後、セフィは宝条の用意する食餌に文句をつけるようになり、味が気に入らないと食べなくなります。
仕方なく宝条は栄養価だけでなく味にも配慮するようになり、パンはジェネシスが言っていた評判の店(天然酵母使用・無添加・オーガニック)で仕入れることになりますが、そのせいで研究所の助手たちが交代でパシリにされます。
宝条の『愛』は、傍迷惑です(笑)

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