初陣

(4)



「まーったく、坊主の姿が見えなくなった時には肝を冷やしたぜ。まさかゾン兄ちゃんと隠れん坊とはな」
「…ツォンです」
その後、セフィロスはモンスターの巣の一つを壊滅させ、彼の行方を必死に探していたクロフォードたちと合流した。
モンスターの全てを斃した訳では無かったが、今回の任務としては充分と判断し、クロフォードは帰投を決めた。
帰りのヘリではJJが操縦し、ツォンは行きと同じく副操縦席に、セフィロス、エレオノーレ、クロフォードが、その順で後部座席に席を占めた。
「まあでも無事、任務が完了して目出度いって事で。坊主、コーヒーでも__」
保温ジャーを手に振り向いたJJが見たのは、エレオノーレの肩に寄りかかって眠るセフィロスの姿だった。
しなやかな銀髪が緩やかな弧を描く頬にかかり、驚くほど長い睫と滑らかな肌が、ビスクドールを思わせる。
「よっぽど疲れたのね。あれだけのモンスターを斃せば当然だけど」
微笑んで、エレオノーレは言った。
JJは口をすぼめ、口笛を吹く真似をする。
「『寝た子は天使』って言うけど、そうやってるとまるで別人だな。オレたちを邪魔者呼ばわりした生意気なモンスター・キラーと同一人物とは、とても思えねぇ」
「…良いから前を見て操縦しろ」
JJに言ってから、クロフォードはセフィロスの手首を取り、脈を確認した。
「……大丈夫なんですか?」
幾分か心配そうな表情で、エレオノーレが訊く。
「…子供にしては脈が遅いし、体温が異常に低いのも気になるが__恐らく、これがこの子の平熱なんだろうな」
前日、握手した時のセフィロスの手の冷たさを思い出しながら、クロフォードは答えた。

皆、セフィロスが『普通』ではないのだと判っているのだ__そう、ツォンは思った。
それでいて、疑問を口にはしない。
敢えてそれをしたのはJJだけだ。
これが、タークスという組織、神羅という会社なのだ。
------『考えるな。行動しろ』
心中で、ツォンは呟いた。



「セ…セフィロス…!」
ヘリが神羅カンパニー本社ビル屋上のヘリポートに着くと、血相を変えた宝条が駆け寄って来た。
クロフォードが、「セフィロスは疲れて眠ってしまった」と、到着前に連絡していた為だ。
「すぐに処置室に運べ!それにアンプルの用意__」
「心配しなくても、眠っているだけですよ」
宝条の言葉を遮って、クロフォードは言った。
「確認しましたが、脈も呼吸も落ち着いています__体温は異常に低いですが」
宝条はJJの背におぶわれたセフィロスを助手たちが運んできたストレッチャーに横たえると、冷静な態度を取り戻してクロフォードに向き直った。
「素人に、セフィロスの何が判る。それに、セフィロスに気安く触るな」
「はあ?異常があったらマズイからチェックしただけっしょ?それとも呼吸が止まってても放っておいた方が良かったって言うんすか?」
宝条はJJの抗議を無視し、セフィロスを研究室に運び込むよう、助手たちに命じた。そして自らも一緒に研究室へと向かう。

「…過保護すぎる心配性の親みたいね」
宝条の姿が見えなくなると、溜息と共にエレオノーレは言った。
「あんなのが親だったら、オレなら自殺したくなるね」
「言葉の綾よ。あの2人が親子である筈がないもの」
エレオノーレの言葉に、ツォンは「どうしても会いたい人がいたから」研究室を抜け出したと言っていたセフィロスを思い出した。

初めツォンは、セフィロスは実験サンプルにされた孤児なのではないかと思った。
だがセフィロスのその言葉を聞いて、生まれながらに特殊な能力を持つが故に両親から引き離され、研究対象にされているのではないかと考えを改めた。
幼いセフィロスが会いたがったのは、おそらく生き別れた両親。
だとするならば、彼らはセフィロスの逃亡を防ぐために神羅に殺されてしまったのかも知れない。
そんな事を考えても無意味だと思いつつも、ツォンは考えるのを止める事が出来なかった。

「セフィロスを撮影したフィルムは2部コピーを取って、科学技術部門と治安維持部門に提出しろ__ツォン?」
名を呼ばれ、ツォンはクロフォードに向き直った。
「……あの子は、これからどうなるんでしょうか」
言ってしまってから、ツォンは後悔した。
そんな事を口にする積りは無かった。
エレオノーレとJJの視線が、こちらに向けられる。
「それを決めるのは我々の仕事ではないし、我々が関心を持つべき事でもない」
「……判っています」
クロフォードは一旦、会話を打ち切ろうとしたが、思い直し、ツォンに訊いた。
「二人だけになった時、セフィロスと何か話したのか?」
「…特には、何も…」
「任務中に起きた事には、報告義務があるんだぞ?」
そんな言い方しなくても、と、JJが口を挟む。
「お前の気持ちは判るが、オレ達は仲間なんだ。仲間に隠し事をすると、自分が辛くなるだけだぞ?」
ツォンは目を閉じた。
無表情で「楽しい」と言っていたセフィロスの姿が脳裏に浮かぶ。
「…セフィロスは、物心ついた時からずっと研究室に軟禁されていたらしいです。抜け出そうとしたのは一度だけだった、と」
「……だから窓の外ばっか見てたのか」
ぼやくように、JJは言った。
「だったら、ピクニックにでもしてやれば良かった」
エレオノーレは黙ったまま、眉を顰める。
「…その会話を報告書に記載するのは止めておけ」
抑揚の無い口調で、クロフォードは言った。



クロフォード、エレオノーレ、JJそしてツォン。
その誰もが、セフィロスが『普通』の子供ではないと判っていた。
だがそのセフィロスが数年後には世界で誰も知らぬ者のいない英雄になろうとは、その時は誰も予測していなかった。








セフィロスが握手を嫌うようになったのはJJのせいです(^_^;)
「Ginger Lily」でアンジールの握手を無視したのもそのせい。
手袋していれば大丈夫なんですけど、本人は理由が判ってませんから。
宝条がちゃんとフォローしてあげればセフィもそんな傷つかずに済んだのに、それをしないのが宝条の宝条たる所以です。
セフィの事はすごく大切にしているクセに、「普通」に大切には出来ないんですね。
セフィは10歳で既に身長160cmくらいあります。
体温低い設定は、CGのセフィってありえない位に色が白くて、血が通っているように見えないので、体温低そうだな……と思って捏造しました。
ツォン一家に関しても捏造しまくりです。

この頃はまだシミュレーションのCG技術も低く、衛星通信対応の携帯電話もありません。
無線使用です。
携帯が普及し始めるのは、セフィがアンジェネと出会った頃からです。
そんな時代なので、ツォンがセフィロスの戦闘を撮影する為に使った機材は、運動会でパパが子供を撮影するようなアレだったと思われます(笑)

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