トンガリコーンを指にはめて食べる【セフィロス】


(2)



「……心臓をやられたんだ。セフィロスは俺に手を触れもしなかったのに…。今でもまだ、動悸が酷い」
「心臓を…?」
鸚鵡返しに、アンジールは訊き返した。
ジェネシスは頷く。
「さっきリビングでセフィロスの姿を見た瞬間、心臓を鷲づかみにされたように胸が痛んだ」
「さっきって、ザックスと一緒にとんがりコーンを食っていたあの時か…?」
苦しそうに胸元を押さえ、ジェネシスは頷く。
「セフィロスがとんがりコーンを指にはめて食べる姿を見た瞬間、ブリザガの直撃を受けたように感じた…。その後もずっと心臓がどきどきして、セフィロスの姿がまともに見られなくなった……」

……は……?

アンジールの脳裏に、ザックスと一緒になってとんがりコーンを指にはめて食べるセフィロスの姿が浮かんだ。
白く細い指にとんがりコーンをはめて、真顔でそれを見つめていた。
中身が20代後半の男なのだと思うと呆れるが、外見が少年なので、可愛いと言えば言える。
「アンジール。俺はもう…永くないかも知れない……」
低く、ジェネシスは言った。
「こんなに動悸がいつまでも続くなんて異常だ。それもセフィロスの事を考えると、一層、酷くなる……」

……ええと……

何をどう判断すべきなのか、アンジールは迷った。
少なくとも、ジェネシスは酷く真剣だ。
冗談を言っている訳では無いようだし、そもそもジェネシスは、こんな冗談は言わない男だ。
つまり、と、アンジールは咳払いして言った。
「セフィロスの姿を見たりセフィロスの事を考えたりすると、心臓の動悸が激しくなって胸が痛む…という事か?」
「ああ…。こんな経験は初めてだ……」
「初めて…なのか?」

幾分か意外に思い、アンジールは訊いた。
ジェネシスは頷く。
アンジールは、がしがしと頭を掻いた。

「俺は多分…そういう症状を経験したことがあると思うが…」
驚いたように、ジェネシスは顔を上げてアンジールを見る。
「経験がある…?」
「ああ、まあ……思春期の頃に」
「そうだったのか…。劣化は、そんな早い時期に始まっていたんだな…」
「嫌…劣化とかそういう事じゃなくて……」
どう、説明すれば良いのか、アンジールは迷った。
そんな事で悩むのも恥ずかしいが、ジェネシスは真剣なのだ。
それにしても、と、アンジールは思った。
ジェネシスはバノーラにいた頃から女の子に人気があって、ミッドガルに来てからはかなりの数の女性と付き合いがあった筈だ。
それに、アンジールの事を『おくて』だとか『恋愛下手の堅物』とか言っていた。
それなのに、今のこのジェネシスは一体、どうしてしまったのか__

改めて、アンジールは幼馴染を見つめた。
考えてみれば、ジェネシスとあまたの女性たちとの交際は、いつも長続きしなかった。
季節が変わるごとに、まるで衣替えでもするように、ジェネシスは相手を替えていたのだ。
アンジールはそんなジェネシスを不実だと窘めた事があるが、ジェネシスは、相手もどうせ遊びなのだからと悪びれなかった。
そして確かに、あれは遊びでしか無かったのだろう。
バノーラにいた無垢な少年の頃から、ジェネシスが追い求めていた相手は一人だけなのだ。

一つ、訊くがな…と、アンジールはジェネシスに言った。
「心臓がどきどきするとか、胸が苦しくなるとか、本当に今まで経験した事が無いのか?」
「ああ…。そう、言っただろう?」
「初めてセフィロスの記事を、雑誌で見た時にも…か?」
アンジールの言葉に、ジェネシスは意外そうな表情を浮かべた。
その時の記憶を辿ろうとする様に暫く宙に視線を漂わせ、それから改めてアンジールを見る。
「あの時にも確かに動悸がしたが…だが今のこれは、そんな生易しいものじゃない」
「じゃあ…セフィロスが女の子に擬態したのを見た時はどうだ?」
「あの時は心臓の動悸より、身体が熱くなった」
5歳児、相手にか…?__思わず、内心でアンジールは呻いた。
これ以上、この話題を続けたくない、と言うより、続けてはいけない気がする。
「つまり…どういう事なんだ、アンジール?俺の中のジェノバ細胞が、セフィロスに感応しているのか?」
「嫌…多分、そういう問題じゃないと…」
「じゃあ、どういう事なんだ?俺は、どうすればこの苦しみから救われる…?」

ええっと……

そういう事は、『おくて』で『恋愛下手の堅物』な俺に聞かないでくれ__そう、内心でアンジールはぼやいた。
これが普通の女性相手なら、何とか言いようもあるかも知れない。
だが、相手は12歳の少年だ。
ついこの間、5歳の少女にプロポーズするとか言い出して、今度はこれか?
もしかして、こいつにはそういうシュミがあったのか……?
先ほどまでとは別の意味で、背筋が寒くなるのをアンジールは感じた。
人の性癖についてとやかく言う積りも頭ごなしに否定する積もりも無いが、相手が子供となると、話は思いっきり別だ。

「アンジール。何とか言ってくれ…!」
変態__喉まで出掛かった言葉を、アンジールは寸前で噛み殺した。
友人の真剣な想いは、出来れば叶えてやりたい。
だが、セフィロスも大切な友人なのだ。
てか、子供相手なんて倫理に悖る。
「セフィロスの事を考えると苦しくなるから考えまいとしているのに、却って止まらなくなる。一体、俺の中で何が起きているんだ?ジェノバ細胞の暴走か?」
「……とりあえず、お茶でも飲んで落ち着いたらどうだ?」
どん引きして言ったアンジールを、ジェネシスはキッと睨んだ。
「お前がお茶なんて言うから、ティーカップに触れるセフィロスの唇が頭から離れなくなったじゃないか…!」

いきなり立ち上がり、ジェネシスは部屋の中を歩き回った。
イライラと言うかソワソワと言うべきか、とにかく落ち着きが無い。
こっちまで落ち着かなくなると、アンジールは溜息を吐いた。

「…で、今度はどうした?」
訊きたくないと思いつつ、仕方なくアンジールは言った。
「ぬいぐるみと一緒に寝ているセフィロスの姿が、眼の前にちらついて消えない…」
「ぬいぐるみと一緒に寝るセフィロスの姿なんて、見たくないと言ってなかったか?」
「そんな姿、見たいものか…!」
幾分か強い口調で、ジェネシスは言った。
「見るどころか、想像しただけで動悸は激しくなるし、呼吸は苦しくなるし、身体は熱く__」
「頭から冷たいシャワーを浴びて来い…!」
ジェネシスの言葉を遮って、アンジールは怒鳴った。
そのまま足早にジェネシスの部屋を出、庭に向かう。
庭では、ザックスが洗濯物を干し終わってモンスターと遊んでいた。
ザックス、と、アンジールはかつての後輩の名を呼んだ。
「お前、いつもセフィロスの事を護るとか言ってるよな?」
「おうさ。セフィはオレが護る!」
「だったら今から当分の間、ジェネシスをセフィロスに近づけるな」
アンジールの言葉に、ザックスは一瞬、不思議そうな表情を浮かべた。
が、すぐに満面の笑顔に変わる。
「りょーかーい♪」

収まらない動悸に苦しむジェネシスを他所に、神羅屋敷の一日は、その日も平穏に過ぎて行った。









■トンガリコーンを指にはめて食べる【セフィロス】
誰かに「こうやって食べるものだ」とか「その方が美味しい」とか言われたら、とりあえず試してみると思います。
でもってトンガリコーンを指にはめて食べるセフィは、仔セフィなら可愛いけど、大人セフィだったらエロいかも…
手袋外した時点でエロいです(//▽//)
ジェネシスが胸キュンしてしまうのも、当然ですわね(笑)

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