夜ぬいぐるみと寝る【セフィロス】

(2)



「それで、お前に相談したかった事なんだが、アンジール」
「………」
もはや返す言葉も無く、アンジールは固まり続けた。
「結婚までは10年、待とうと思うが、その前に悪い虫が付くのを防ぎたいから、今のうちに婚約だけでもと思うんだが、急ぎすぎだろうか…?」
問題はそこじゃないと思うが__アンジールは思ったが、口に出せない。
「セフィロスはまだあどけない少女だし、束縛するような真似はしたくない。だが他の男に奪われたらと思うと、俺はもう、それだけで気が狂いそうになる」
「お…落ち着け、ジェネシス」
「これが落ち着いていられるか!見た目が愛らしいだけでなく、性格もおっとりしていて穢れない。だが芯の強さはあって、まだ幼いのに毅然としている__俺の理想の女神が、まさかこんな身近にいただなんて……」
恍惚とした表情で語るジェネシスに、アンジールは深く溜息を吐いた。
ツッコミどころがありすぎて、どこから突っ込んで良いのか判らない。
「やはり今のうちに正式に婚約しておくべきだろう。そうと決まれば婚約指輪を__」
「ジェネシス。いいから座れ」

今にも部屋から飛び出さんばかりのジェネシスの手首を掴んで、アンジールは相手を引き止めた。
幼馴染の夢を壊すのは忍びないが、下手にセフィロスに婚約など迫れば正宗の錆にされかねない。
セフィロスはとも角、ジェノバの機嫌を損ねたら、本気で殺されるかも知れないのだ。
ここは敢えて悪役になって、ジェネシスの眼を覚まさなければならない。

「お前の気持ちに水を注すような事は言いたくないがな、ジェネシス。昨日の女の子は、ただの擬態だぞ?」
「そんな事は判っている」
「判っているなら、何故__」
さっきも言っただろう?__アンジールの言葉を遮って、ジェネシスは言った。
「セフィロスは、遺伝子的にはジェノバと同一体だ」
「だが、DNAに性別に関する遺伝情報は無いんじゃないのか?」
「その通りだ。要するに、セフィロスは遺伝子的には男でも女でも無い。逆に言えば、男でも女でも、どちらの姿も偽りでは無く、本物だ」
「……」

幾分か混乱し、アンジールは口を噤んだ。
そういう考え方もあるのかも知れないが、何だか違う気がする。
昨日のセフィロスの話によれば、セフィロスが男として生まれたのはジェノバがそれを望んだからだそうだが、その仕組み自体、どう理解して良いのか判らない。
が、今、問題なのはその事では無い。

「…仮にお前の言う通りだとしても、セフィロスは今まで二十何年、男として生きてきたんだぞ?今更、女になる積りなんて無いだろう」
「普通ならばな」
言って、ジェネシスは幽かに笑う。
「だがもしジェノバがそれを望めば、話は別だと思わないか?」
「それは……」
途中で、アンジールは言葉を切った。
確かにジェノバの望みならば、セフィロスはそれが何であれ、叶えようとするだろう。
それに考えてみれば、少女の姿に擬態する事に、何の抵抗も無いようだった。
しかしだからと言って、これからずっと女性として生きていくとなると、話は別だ。
「…確認しておきたいんだが、セフィロスが女性になる事を、ジェノバは確かに望んでいるのか?」
「昨日、出かけた時の溺愛振りを見れば明らかだ。ジェノバはセフィロスを抱き上げたり髪を撫でたり、片時も離さなかった」
ジェネシスの言葉に、アンジールは幽かに眉を顰めた。
「それは…性別の問題じゃなくて、セフィロスが小さな子供の姿だったからじゃ無いのか?」
何しろジェノバは一緒に風呂に入って髪を洗ってやるほどに、セフィロスを溺愛しているのだ。
それが小さな子供の姿になれば、なお一層、溺愛するのも不思議ではない。
一方のセフィロスも、幼い子供の姿の方がジェノバに甘えやすいだろう。
「俺は探し続けていた女神をやっと見つけたんだ。邪魔をするなら、たとえお前でも容赦はしない」
幾分か険しい表情で、ジェネシスは言った。

昔から、一度、決めたら引かない性格だ。
そして望みを叶える為には、どんな努力も惜しまない。
セフィロスに憧れてソルジャーを目指した時もそうだった。
運動が苦手でしょっちゅう、熱を出していたジェネシスがソルジャーになるなど、絶対に無理だとアンジールは思い、そんな無茶なことはすべきでは無いと止めたのだ。
が、ジェネシスは偏食を直して身体を鍛え、魔法と剣術と用兵学を学び、最終的にはクラス1stのソルジャーになった。
『不可能』を可能にしてしまったのだ。
それを思えば、セフィロスがジェネシスのプロポーズを受け入れる事も、絶対に無いとは言い切れない__かも知れない。
但し、ある一つの問題をクリア出来れば…だ。

「…冷静に考えて欲しいんだが、ジェネシス」
「安心しろ、相棒。俺とセフィロスが婚約しても、お前をつま弾きにしたりはしない」
にっこり笑って、ジェネシスが言った。
が、眼が笑っていない。
「だがもしお前もセフィロスに懸想していて、俺のライバルになると言うなら、親友のお前でも容赦はしないが」
「そうじゃなくてだな…。何度も言っているように、セフィロスの昨日のあの姿は擬態に過ぎない訳だから__」
「性別は問題では無いと言っただろう」
いやそれ、問題にすべきだと思うぞ、思いっきり__内心で、アンジールは突っ込んだ。
「仮に性別が問題じゃなかったとしても、昨日のセフィロスは、5歳くらいだったぞ?」
「だから、結婚まであと10年は待つと言っただろう。15歳の花嫁が若すぎるというなら13年くらい、待っても良い」
その頃、お前は30代後半なのに、そんな若い子を嫁にする気か?__内心でアンジールは思ったが、口にはしなかった。
今、問題なのは、そこでは無い。
「…10年経っても、あの姿のままだったら?」
「……!」
アンジールの言葉に、ジェネシスの表情が変わる。
「擬態なんだから成長するとは思えないし、さっきも言ったように、ジェノバが溺愛していたのも小さな子供の姿だったからだろう。だからつまり__」
「つまり……俺は犯罪者になってしまうという訳か……」
アンジールの言葉を遮り、青褪めてジェネシスは言った。
が、すぐに余裕の笑みを浮かべる。
「昼はジェノバの為に少女の姿、夜は俺の為に大人の女性の姿になって貰えば問題無い。むしろそうなれば、13年も待つ必要が無くなる!」
「あのなあ……」

アンジールは、頭痛を覚えた。
そんな風に色々な姿に擬態してしまったら、それは最早セフィロスでは無いだろう__そう、内心でぼやく。
だが今のジェネシスは、文字通り『恋は盲目』状態だ。
まともに説得しようとしても、聞き入れそうに無い。

「まず最初に、セフィロスの意思を確認しておくべきじゃないのか?」
「だから、プロポーズして気持ちを確かめる」
いろいろ飛ばしすぎだ__内心で、アンジールは突っ込む。
「そうじゃなくて、そもそも少女とか女性とかに擬態したままでいる積りがあるのかどうか、それを先に訊いておくべきだろう」
「そこは説得する」
…は?
アンジールは、再度、固まった。
「セフィロスは世間知らずで素直な性格だからな。『そういうものだ』と思わせる事が出来れば、たいていの事は受け入れるだろう」
「それは説得じゃなくて、騙して丸め込むって言うんだ」
さすがに黙っていられず、アンジールは言った。
その言葉に、ジェネシスはむっとした表情に変わる。
「お前にそんな事を言われるのは心外だ。俺がセフィロスを騙すだなんて、よくもそんな__」

その時ドアが開き、ジェネシスは口を噤んだ。
入って来たのは、セフィロスとジェノバだ。
そのセフィロスの姿に、ジェネシスは大きく目を見開いた。
そして、呆然と呟く。
「俺の…英雄……」
セフィロスは12歳前後の、ジェネシスとアンジールが始めて雑誌で目にした時と同じ姿でそこにいた。
背はジェノバよりやや高い程度で細身。
年齢の割りに長身だが、顔立ちには少年らしい幼さが残っている。
しなやかな白銀の髪は、腰くらいの長さだ。
服装まで当時、着ていた戦闘服で、これで手に正宗を持っていれば、雑誌の写真そのものだ。

「お茶の時間じゃないのか?」
恍惚とした表情で自分を見つめるジェネシスなどまるで目に入っていないかのように、セフィロスはアンジールに訊いた。
「あ…ああ。忘れてた。だがお茶より、その姿は一体……」
「母は、俺が子供の頃からずっと側にいてやりたかったんだそうだ。でもあの頃は自由に動けなかったから、それが出来なかった。側にはいられなかったが、いつも俺の事を想っていたそうだ」
少し、はにかんだように微笑って、セフィロスは言った。
ジェノバはわずかに目を細めて、愛しそうにセフィロスを見つめている。
「だから、母の望みを叶える為に、暫くこの姿でいる事にした」
「……そうか…」
アンジールは感動に打ち震えているジェネシスを見、愛情に満ちた眼差しを交わすジェノバとセフィロスを見た。
いつの間にか周囲にはモンスター達が集まっていて、主2人を見守っている。
「それは、良かった」

色々な意味でな__内心で、アンジールは思った。
ジェネシスの表情からして、女性に擬態したセフィロスにプロポーズする考えは、どこかに消え去ったらしい。
一時的な恋の衝動より、長年の憧憬の念の方が強かったのだ。

「お茶菓子は、昨日の残りのクッキーで良いか?」
「俺はお茶だけで良い。この姿だと、余り食べられないからな」
アンジールの問いに、セフィロスはそう、答えた。
変声期途中の、子供でも大人でもない、少年の声だ。
そうか、と言って、アンジールはジェネシスに向き直った。
「じゃあ、お前はお茶を淹れてくれないか?__ジェネシス?」
「__え?あ…ああ……」
名を呼ばれ、漸く現実に引き戻されたかのようなジェネシスに、アンジールは幽かに笑った。
セフィロスに対する憧れを滔々と語っていた少年の頃のジェネシスの姿が、昨日の事の様に鮮やかに脳裏に蘇る。
「今日は……りんごのハーブティーにしよう」
「…ああ。それが良い」

ほどなくキッチンは甘酸っぱい香りに満たされ、神羅屋敷の1日は、その日も平穏に過ぎて行った。








LA VIE EN ROSEのSapphire様から頂いた『愛のバトン』です。
バトン回答に加えて、お題形式でSSにしてしまいました(^^ゞ
Sapphire様、バトン有難うございました♪
回答が思いっきり遅くなってしまってスミマセン…;;

<ルール>
・このバトンは指定されたキャラを愛しているかどうかを問うバトンです。
・【】内に指定されたキャラを当てはめて、そのシチュエーションに対してあなたのコメントを書きましょう。
・アンカー禁止
■夜ぬいぐるみと寝る【セフィロス】
■大事な話しの途中で噛んでしまう【セフィロス】
■ウィンクが出来ない【セフィロス】
■トンガリコーンを指にはめて食べる【セフィロス】
■チョコレートの『小枝』を真顔で『こわざ』と読む【セフィロス】
■泣ける映画で人目も気にせず号泣する【セフィロス】
■告白する前、ぬいぐるみで告白の練習をする【セフィロス】
■家のもの音一つでビビる【セフィロス】
■相手からのメールの返信が遅いとソワソワする【セフィロス】
■ツンデレな【セフィロス】
■猫を見つけると『ニャー』のみで猫と会話を試みる【セフィロス】
■お風呂で熱唱する【セフィロス】
■掃除が苦手な【セフィロス】
■海に入る時うきわ持参な【セフィロス】
■公園で子供を見ると、『子供か…いいな』と呟く【セフィロス】
■指定キャラへメッセージを。

お題にしてしまったので全ての回答は未だなんですが、先に回しちゃいます(^^ゞ
aya様、みかんっこ様、宜しければ指定キャラ【セフィロス】でバトンを貰ってやって下さいませ。
スルーOKですv

■夜ぬいぐるみと寝る【セフィロス】
セフィには「ぬいぐるみと一緒に寝る=子供っぽい」などという一般常識は無いと思います。
なので、誰かに貰えば、一緒に寝るのもアリだと思います。
あるいは、「ぬいぐるみの用途=夜、一緒に寝る」で認識しているかも…
でもって、ぬいぐるみと一緒に寝るセフィは、とっても可愛いと思います♪
むしろ、ぬいぐるみになって一緒に寝た(ry


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